もとぶ野毛病院




日総研出版『臨床老年看護』平成12年6月号 掲載予定

パソコン導入で本当に個人的なケアプラン作成はできるか

医療法人 野毛会 もとぶ野毛病院 看護部長 田場慎子




T はじめに

 ケアプランは、厚生省が作成した基本調査と主治医の意見書を元に策定委員会を持ち介護度を決定し、その介護度の点数に見合った介護を利用者の要望に沿って作成するものである。この基本調査や主治医の意見書も一定の講習を取得した者が作成している。

 ケアプランを作成する過程は概況調査・各ルールによるアセスメント・問題領域の検討の前段階を経て施設サービス計画書(1)・施設サービス計画書(2)・日課計画書・週間サービス計画書・サービス担当者に対する紹介内容・サービス担当者会議の要点・施設介護経過を6ヶ月毎(状態変化の際)に行う事が義務付けられている。多くの長期療養の現場では手作業でのケアプラン作成を効率よく短時間に作成できる事を期待してパソコンを導入し始めた。しかしこの様な現状で考えられているケアプランはどことなく形式的でありやや疑問があるところである。

 今回の特集は「パソコン導入で本当に個人的なケアプラン作成はできるか?」であるので「パソコン導入」の意義と個別性のあるケアプラン作成の意味を中心に据え、本稿では「POS」の原則で行われている病院全体のコンピューター活用の一環として看護業務の適用を始めに述べ、それを活用する事で施設や介護支援事業者の介護支援専門員が主体となって作成するケアプランを概にコンピューター化し、結果として、アセスメント→プランニング→実施→モニタリング(See → Plan → Do → Reform)を各職種間が連携し有機的に機能し、利用者にとって治療・看護・介護がよりよく受けられる組織作りを模索してきた経緯を述る。

U コンピューターシステムと看護

 1998年開院当初から10台のパソコンとUNIXサーバー(インターネットの基礎となっている)でネットワーク化され、病棟から検査結果の照会や申し込みが行われ、各部間のE-mailも使われた。1)

 その後パソコンの飛躍的性能の向上・コストダウンにあわせで設置台数も増え、病棟業務を視覚的に表示出来るようになり、ネットワーク化が一段と進んだ。1994年には概に医師の指示簿をコンピュータ化し、1995年インターネット技術でネットワークのレベルアップを行い、イントラネット型の院内情報システムへと発展した。2)

V コンピューターを導入することによる効果とは

 「POS」の基礎POMRを考案したDr.L.Weedは、コンピューターによる記録がPOMRを支える手段と考え、当時流行のプロムラミング言語 MUMPS を使っていた。日本には日野原氏が1981年「看護のためのPOS」他で紹介している。1971年には大阪府立成人病センターME開発室編「医療情報システム」・藤田学園ME学研究部「プログラミング」が編纂され、1983年には大谷元彦氏「看護記録のコンピューター化」・1984年渡辺トシ子氏「申し送りとコンピューター活用」に着目した。このように看護の臨床現場にコンピューターの導入が考え始められて久しい。そして近年多様な医療情報誌にコンピューター活用の記事が掲載している。このように「医療情報のシステム化」が熱心に取り組まれている背景には、情報の収集・整理・表示・伝達・共有・蓄積とコンピューターの多種多様な機能(マルチメデイア)を活用し、業務改善や多種多様な職種で構成している「保健・医療・福祉」の連携が有機的に機能し、利用者にとって治療・看護・介護がよりよく受けられる体制づくりが求められているからであろう。

 当院は1995年から「イントラネット医療情報システム」をシステム推進室が中心になって手作りしてきた。イントラネットの中に「看護システム」「ケアプランシステム」も組み込まれ、病棟の情報がすべての職員に周知になった。刻々と変化する患者の状態を部署や病院全体で共有することにより、専門分野の異なる職員が「思考の過程、実践、評価」を共有する事で、より質の高い業務が出来る。これはケアプランが一定の形式で入力し情報を共有することと同様であり「保健・医療・福祉」の連携に有効であると考える。

W コンピューター導入による効率化の裏に隠された勘違いとは

1.職員のアセスメントの重要性

 では、コンピューターを導入すれば「質の高い効率化した業務が展開できるか」と問われれば、全面的肯定はできない。コンピューターは「便利な道具」であり、有効に活用するのは職員である。

 上記Uの2で述べたようにアセスメント入力だけで選定表、問題領域と瞬時で表示する。しかしSOAPの「S・O」を科学的に分析し、判断・考察をする過程を経て「アセスメント」をくだす事が重要なのである。POSの基本がなければ個別性は生れず、看護能力も育たない。言い換えれば、「アセスメント」とは病歴や診療・検査データー・状態の観察・利用者が置かれている状況から得られた情報・所見であり「利用者が日常生活を営む上で心身の機能能力の低下を予防する要素」を判断する事である。よって患者を援助している職員の誰がアセスメントしても一定の問題点が抽出され、その問題点の根拠が説明でき納得できるものであることが求められる。

 又、アセスメントする為には、利用者の状態や状況を「保健・医療・福祉」の客観的な視点持ち判断する事も求められている。その為には各専門職種の情報交換が必要であり、どのような方法で情報交換を行うかも重要な事柄である。1利用者のアセスメントを各専門職種別に項目を分担しアセスメントする方法もあるし、情報を集約し介護支援専門員がアセスメントする方法もあるが、アセスメントの時点からより総合的な視点が要求される。

 では「より総合的な視点とは」ケアプランに必要な情報は何かを整理する事であり、利用者と家族の要望であり、援助を必要としている利用者の状態と援助を提供するサービス機関のサービス資源である。このように「ケアプランに必要な情報は何か」を充分認識する事がアセスメントを行う前に重要となる。

 このような方法で導き出された問題点を基に「解決されるべき課題」が導き出され、長期短期目標・介護目標・介護方法・援助項目と展開していく過程が「介護保険」施行の過程と考えるし、効率的であり効果的な運用になると考える。

2.ケアプラン修正の必要性

 では、コンピューターでアセスメントからケアプランまで即作成できるかと問われればと全面的に否定する。

 例えば「コミュニケーション障害」という同一の問題点を持つ利用者であっても視聴覚障害の差・伝達能力・認知能力・興味や関心の違いによって異なる援助方法が考えられる。しかも援助側の問題として施設や社会基盤が同じように整備されていない状況である。資格者や人員を法的に整備したとしても個々人の能力・技術には差がある。患者のニーズは様々であり援助のワンステップをどのように導入するかも個別性が優位するところである。そして、今開発されている「ケアプランシステム」に沿ってプラン作成を行った経験では、個別性のあるケアプランを作成するにはより具体的な事柄に絞り込む過程がありかなりの修正を行っている。ここに看護者と患者のダイナミズムがありコンピューターを活用しない看護はあり得ないのみならず、活用する事によりますます看護能力を要求され、質的向上が計られ、個別的なケアプラン作成となるのである。

 市場で開発されている「ケアプランシステム」は様々な「ケアプラン」を示唆してくれる。初めてケアプランを手がける方々には大変役立つ資料となる。これは現在ケアプラン作成に従事している方々の意見でもあり著者も同感である。その資料は「症状別看護計画」に代表される系統と類似しているが、それだけでは個別性が薄いと言わざるを得ない。従来、産学協同で経済効果が期待される学問には社会経済投下がもたらされてきた。人間の一生の過程である「高齢者」の「ケアプランシステム」の開発で療養部門にも社会経済が進出し研究され始めたことは大いに歓迎したい。

 注意すべきは介護点数に合わせたケアプラン作成に陥る事である。それさえなければ、これにより療養部門の看護・介護が様々な分野の専門職種の方々により研究され、科学的理論体系が進み一定レベルの援助がどのような状況であっても受容できうるならば、人が一生安心して生活できる「社会システム」の一つとして歓迎される制度になるものと確信する。更に自戒しつつもこの領域に看護職が主体的に取り組んでいくべきであると考える。

V 今後の展望と課題

 何はともあれ、医療現場それも救急・急性期医療のような部門でなく、社会構造の変化によりいわゆる慢性医療の長期療養を余儀なくされていた部門に注意が向いてきた。看護現場として新たな領域で要介護度やプラン作成に力を入れざるを得ず、介護保険制度の施行によりケアプランが必須となった。時代の要請とコンピューターで行へば簡単に作成できると思い込み、特別養護老人ホーム・老人保健施設・療養型病床群や在宅療養の現場にコンピューターが積極的に導入され始めた。本質的に文章表示の「個別性」が求められているケアプラン作成にコンピューターが使われだしたことは考え深いものである。

 これは「POS」の基礎POMRを考案したDr.L.Weedが「教え導く診療記録」6)で書かれている「よい診療はよい診療記録から生まれる」と同一線上のものと考える。そこでケアプランを作成実施し集積する過程で「援助項目別ケアプラン」を体系化する作業を継続することで、より個別性のある「標準ケアプラン」が出来上がっていくのではと期待するが、それとても既製品である事には変わりがない。

 今、様々な業者が「ケアプランシステム」を開発し紹介している。これが介護保険施行前の一過性のものとして終わることなく、今後介護保険下のケアプランが学会・情報誌で発表提案され「ケアプランシステム開発業者」にフィードバックし当院のごとくシステム開発が継続されていく事を望む。

 そして、医療人のコンピューターアレルギーが取れて来た現状ではフィードバッグを自らの手でソフトに反映できる能力も身につければ理想的である。キーボードアレルギーを脱却した医師達はオリジナルソフトで自らの医療をサポート出来るまでコンピューターを自家中籠薬とし始めた。看護学校でも情報科学に30時間教えている現状を考えると、早晩、看護婦全体としてコンピューターを使いこなす時代が来る。その時、今回のテーマは陳腐なのもとなっているはずである。現状はコンピュータを使いこなす「新たな看護学」の移行・発展期と捉え、積極的に新技術をマスターし間接看護の領域で活用すると共にプログラムに内在するロジックを理解し、看護学そのものを進化させるべきと考える。

 このような社会基盤により体系化した分析から抽出したアセスメント・問題点やプランは説得力を持ち職員の質の向上が図られる。この向上により、個別的ニードに沿ったケアプランの作成は容易になり質の高い援助が提供できる。そして、長期療養の分野でコンピューターの活用が定着するならば、医療現場はますますコンピューターの機能を駆使して業務改善が図られ、資格者が独自の資質を発揮し「保健・医療・福祉」の連携が有機的に機能し、利用者にとって治療・看護・介護がよりよく受けられる体制づくりに貢献するものと考える。

 最後に、常に医療・看護の方向性を示しご指導下さる当院理事長上田裕一氏に感謝申し上げる。

参考文献

1)高良利実:中規模病院におけるシステム開発、新医療、16:91-94,1989

2)上田裕一:手作りイントラネット医療情報システム、JMS、45:37-43,1998

3)田場慎子・具志堅順子:「申し送り」に新たな意義を求めて、看護展望、37-46,1999.7

4)厚生省老人保健福祉局老人保険課・厚生省老人保健福祉計画課修:高齢者ケアプラン策定指針、厚生科学研究所、1994年

5)高橋泰:TAI高齢者ケアプランビジュアル作成、日経BP社、1997

6)渡辺トシ子編著:改定PO的思考による看護過程の展開、中央法規出版、1988

7)後藤真澄・若松利明:標準ケアプランとケア判断、日總研、1998

8)日本訪問看護振興財団:在宅ケアにおけるアセスメントとケアプラン、日本看護協会出版会1997




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