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月刊かんごきろく2002掲載

コンピューターを活用したカンファレンスと申し送り

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院 看護課長 玉城 葉子
看護主任 與座 涼子 四本 恵美子

[はじめに]

医療制度改革が進む中で、病院機能分化は更に拍車がかかっている。
また、診療録の電子化(電子カルテ)やクリニカルパス、情報開示など、患者医療情報の共有化は避けて通れない状況となった。
当院は、一般外来(1日平均約90~100名)と介護療養病棟60床、特殊疾患療養病棟(1)25床、特殊疾患療養病棟(2)21床、老人療養病棟入院管理料(4)44床の計150床のベッドをもつ療養病院である(表1)。
療養病棟では、急性期医療を中心とした一般病棟より、ケアカンファレンスのような各職種間の連携が重要であり、それらが有機的に機能し、患者にとって治療・看護・介護がより良く受けられる病棟づくりが求められている。
今回は、当院におけるコンピューターシステムを活用したカンファレンスと申し送りの現状と将来への展望について述べてみたい。

[当院のコンピューターシステムと看護・介護]

1.コンピューターシステム導入の経緯

当院では、1988年開院当初から10台のパソコンとUNIXサーバー(インターネットの基礎になっている)でネットワーク化し、病棟・外来から検査の申込や検査結果照会が行なわれ、各部署間でE-mailも活用されていた1)。
その後、パソコンの飛躍的性能の向上やコストダウンに併せて設置台数を増やし、病棟業務を視覚的に表示できるようにネットワーク化を一段と進めた。
1994年(平成6年)にはすでに医師の指示簿をコンピューター化し、翌1995年(平成7年)にはインターネット技術でネットワークのレベルアップを行い、イントラネット型の院内情報システムへと発展した2)。
特に当院独自で考案した温度板(資料1)は、バイタルサイン、食事摂取量、排尿回数・尿量、排便回数、ケアプラン、オーダー、臨床検査データ、レントゲンや超音波・内視鏡画像など患者情報のほとんど全てがこの温度板1画面から検索でき、医療・看護・介護および事務・医事部門に至るまで大きな役割を果たしている。

2.看護システムの概要

前述のような院内イントラネットの充実により、患者情報は医師・看護師のみならず、栄養課、理学療法課、薬剤課、医事課など各部署からいつでも検索することができるようになった。(画像1)
医療制度改革、診療報酬改定に対応しながら進めてきたコンピューターシステムと看護システムの変遷について述べる。

1)オーダリング用紙付き看護記録
看護の場においては、医師の指示簿がコンピューター化されたことにより、処方箋などの転記作業が減少した。
また、患者ごとの指示項目をプリントアウトすることで、申し送り時にその都度患者の指示をメモする必要がなくなり、指示確認のためベッドサイドからナースステーションに戻ることもなくなった。さらに看護記録も記入できるオーダリング付き看護記録を作成したことでベッドサイドでオーダーや看護項目の確認ができ、また看護記録をこれに直接記入しカルテに保存するようにした。それによって勤務交代時の看護記録転記の無駄が省け、超過勤務は著しく減少した。
現在は、医療的看護の多い特殊疾患療養病棟(1)(2)において活用されている。

2) 携帯端末看護ノート(画像2)
さらに、オーダリング用紙方式を発展させ、シャープ社のZaurus6000という端末機を用いて携帯端末看護ノートを作成した3)。
現在は、Palmという機種に変わったが、バイタルサイン、食事摂取量、尿便排泄量と回数、酸素供給量、血糖値が直接ベッドサイドで入力できるようにした。
状態記録として、意識・生活・ADL・呼吸・消化器・尿・疼痛・表情・睡眠・痰・排泄・便・肌色・体感・脈拍の16観察項目を設定し、各状態の部位・度合い・生活範囲・自立度・援助レベル・理解度・性状などが画面タッチ方式で入力できる。
この16項目には「看護判断・処置・報告」の画面を設定しているので、看護判断の記載がより明確である。これをパソコンに転送すると即座に温度板に表示される。現在、全ての入院患者に対して使用していて、温度板を構成する極めて重要な情報源となっている(資料2.3)。
看護ノートの導入により看護記録は一変した。約4年の使用経験から、大半の入力業務は、看護師とトレーニングされた介護職員が受け持っている。
この経験から、看護師が直接看護を行う時は准看護師・介護職員に指導しながら行う原則が生まれ、教育も含めた看護業務(間接看護)と実際の看護行為(直接看護)との調整が図られるようになった。

3) ケアプラン(画像3)
一般病床と療養病床の大きな違いは、治療(医療)することが主体の一般病床に比べ、療養病床では身体生活援助(介護)やリハビリテーション(以下、リハビリ)を主体とするところにある。
一般病床の看護師が、看護計画を作成するのに対し、療養病床の看護師はケアプランを作成する。

当院のケアプランは、病棟種別により大きく分けて3つのソフトを使用している。

(1)老人療養病棟・特殊疾患療養病棟でのケアプラン
医療療養病棟では、「看護・介護計画」の策定4)義務づけられており、高齢者ケアプラン(MDS-RAPs)を採用している。360項目のアセスメントをデータ入力することで、選定表、問題領域の確定まで表示することができる。「患者状態一括表示」を当院独自で開発5)し、活用している。これには、106項目のアセスメント項目を円グラフ化して表示している他、問題領域やリハビリの関与や生活援助項目を一括して図表化したものである。これにより、ケアプラン作成までの作業時間が驚異的に短縮でき、患者の病状と状態の関連、リハビリの効果と状態改善の経過、状態変化を全体像としてイメージすることが可能になり、グラフの変化により時系列的変化も把握しやすくなった。温度板上の「状態」ボタンをクリックすることで即座に表示され、3ヶ月ごとに更新している。

(2)介護療養病棟でのケアプラン
2000年4月に介護保険制度がスタートし、当院でも60床を介護療養病床としてスタートさせた。
現在、ケアプランの作成にはMDS‐HC2.06)を基盤にし、更に医療的項目を追加した内容で、当院独自で作成した専用ソフトを用いている。個々の患者のアセスメントおよびケアプランは、温度板上の「HC」をクリックすればどの部署からでも情報収集することができる。
初期画面とサービス計画書(1)を例示する(資料4.5)。ケアカンファレンスの時などは、予め病棟まで足を運ばなくても事前に情報を入手でき、効率良くカンファレンスを進めることが可能である。

(3)その他のケアプラン
一方、高橋ら7)は、高齢者ケアプランのMDS-RAPsとは違う方法で「TAI高齢者ケアプラン・ビジュアル作成」を開発した。
タイムスタディをもとにした独自のレベル判定、タイプ別、老化過程図は明快で、一般の介護職員でも十分に活用できるものである。さらに、記載の方法がプログラミングしやすかったので、当院のイントラネットで活用できるものに改変して使用させて頂いている。その特徴は、MDS-RAPsより、短時間でできること、視覚に訴えるので新人職員にもわかりやすく教育的効果があること、タイムスタディをもとにしているので病棟ごとに集計すると病棟単位の忙しさの度合い(介護量・医療の量)がわかりやすく、人員配置を考慮するなど、より適切な施設管理が可能になることなどが挙げられる。
当院では、病棟ごとに介護職員がTAIケアプランを月2回作成し、イントラネットにアップしている。

3.コンピューターを活用した申し送り

看護における申し送り時間の短縮や廃止が論議されて久しい。当院でも、コンピューターを活用し申し送り時間の短縮に努めてきたが、申し送りにはそれなりの意義があるとの考えから廃止には至っていない3)。
当院は、病棟の選択を2001年9月に済ませた。それに伴い、看護の重心は治す看護(Cure)から、治ることを前提にしない生活介助を含めた看護(Care)へと移ってきた。高齢者ケアプランに示されるように、病歴から生活歴へ、治療介助からリハビリ介助へ重点が移動すれば、おのずと看護記録も変化する。それに伴い、「申し送り」も変わってくる。
一般病床の患者情報が、入退院の予定や検査・手術のスケジュール、疾病に関わる状態変化や検査データの変化などが主体であるのに対し、療養病床ではバイタルサインの変化のみならず食事量や排泄・活気・意識レベルなど、生活機能に必要な患者情報も重要である。
看護職と介護職などその他の専門職が同一の目線で患者情報をキャッチし、均一な考えで適切な看護・介護ケアを行っていくためにはどうしても「申し送り」は短時間であっても省略はできない。

医療療養病棟での申し送り
院内でも、病棟ごとに申し送りの形態や内容は若干異なっている。
特殊疾患療養病棟や老人療養病棟入院管理料(4)の病棟では、かなりの医療を要する患者が多い。よって、特に注意を要する患者では、パソコンで「温度板」を開き、最近の状態変化や検査データの変化まで申し送る。また、温度板から有熱患者や異常高血圧患者などの一覧表示ができるので、特に変化の合った患者のみ申し送る。また、医師への報告などもにも役立つ。約10~15分で医療的申し送りは完了する。その後は、患者を取り巻く様々な事柄や状態・生活援助・処置・治療・リハビリ予定を確認し、お互いの業務内容を円滑に行えるようミーティグを約15分間で行っている。

介護療養病棟での申し送り
介護療養病棟の患者は、医学的には比較的安定した患者や治療が終了した患者が多いので、従来の「申し送り」形態から「ミーティング」型へと変化してきている3)。
温度板内の一覧表示から、有熱患者や状態の急変した患者・不穏で見守りの必要な患者などを約10分での申し送る。その後、看護職・介護職合同で当日の業務内容の確認や管理的事項についての連絡など約15分間のミーティングを行う。よって、朝の申し送り現場での全体としてのコンピューターの活用は比較的少ないが、看護師は必要な患者の情報収集は、申し送り前後に適宜温度板から行なっている。

4.コンピューターを活用したカンファレンス

次に、院内におけるカンファレンスにおいて、どのようにコンピューターが活用されているかについて述べる。
介護療養病棟では担当者会議(ケアカンファレンス)を週1回、リスク検討会を2週に1回、特殊疾患療養病棟ではケースカンファレンスを週1回行っている。また、全病棟を通しての褥創ケアチームによる褥創回診を2週に1回、褥創会議(カンファレンス)を月1回行なっている。ここでは、介護病棟におけるケアカンファレンスと褥創対策におけるコンピューターの活用について紹介することにする。

1.介護療養病棟での担当者会議(ケアカンファレンス)(画像4)
参加する担当者は、介護支援専門員(病棟看護主任)、医師、看護師、介護福祉士、介護士、理学療法士、栄養士、社会福祉士(医事課)などである。
新入所者、ケアプラン更新患者や状態変化の著しい患者など、3名程度を選定しカンファレンスを行なう。患者名は、あらかじめ参加者にローカル通信ソフト(IPMメッセンジャー)で通知されるので、各専門分野のスタッフは患者情報をイントラネットから検索してカンファレンスに備えて生かしている。
例えば、栄養士は温度板から、患者の年齢・身長・体重・身体状況(活動性)から基礎代謝量・エネルギー必要量を算出、栄養状態(血清蛋白やアルブミン・体重)や数ヶ月間の食事摂取量の推移から栄養アセスメントを行なう(資料6)。理学療法士は、まず、温度板から、病歴・バイタル変化・看護記録・レントゲン所見・検査データ時系列・患者状態表示などを基本情報として収集する。その後、ベッドサイドで機能障害に配慮した療養環境(ベッドの配置や高さ、車椅子の配置場所など)や介助方法の実際など、病棟での問題点のチェックを行ってカンファレンスに臨んでいる。
介護師は、TAIビジュアルケアプランの変化から、介護項目や方法、介護量などの問題点を取り上げる。医師や看護師は、病状と治療・看護目標について検討し、介護支援専門員がカンファレンスを総括して、今後の看護・介護の方向性、リハビリの方法やケアプラン作成に反映させていくことにしている。
カンファレンスの対象にならなかった患者についても、患者情報は温度板や情報検索画面から、いつでもどの部署からでも収集されるので、各部署からの連絡やアドバイスは、その都度イントラネットの「掲示板」で迅速に連携がとれるようになっているのも有意義である。

2.褥創対策におけるコンピューターの活用(画像5画像6画像7)
当院では、2000年から外科医師と看護師で褥創対策チームを発足させ対策を行っていたが、2002年10月から全病院に褥創対策が義務づけられるのを契機に、2002年4月から組織と内容を充実させた。
外科系医師、内科系医師、看護師、介護師、栄養士から成るチームを編成し、病棟横断的に月2回の褥創回診と月1回のカンファレンスを行っている。
全入院患者のうち障害老人自立度(寝たきり度)がB以下の患者にはブレーデンスケール8)を用いて、褥創発生危険度を予測する。ちなみに、現在119名の患者がB1以下の自立度である。ブレーデンスケールはイントラネット上で参照できる。発生危険度が高いと判断された患者には、褥創ケア基準(資料7)に基づいて、看護や介護、栄養面からの対策が検討される。栄養士は、前述したように温度板から栄養アセスメントを行い、補食の適応なども考慮する。褥創を有している患者には、その病期に応じて治療・介護にあたる。ここでも、イントラネット画面が威力を発揮する。視覚に訴え、共通認識のもとに誰でもその病期の判断と処置を的確に行うことができる(資料8)。各々の患者の褥創治癒過程は、DESIGN点数8)の推移と、デジタルカメラの画像ファイリングで行っている。月一回のカンファレンス結果は、イントラネット上の会議記録にアップされ、全職員が閲覧できるようにしている。


[今後の展望]

当院では、早くから医療現場にコンピューターを導入し、業務改善に生かしてきた。医療界の制度改革が進む中で、診療録の電子化(電子カルテ)や情報開示など医療情報の共有化は避けて通れない状況である。また、医療安全対策や院内感染症対策、褥創対策など組織横断的な病院管理体制も必然となった。これまで、個々の患者情報を紙ベースで記録し、口頭で申し送り、病棟単位でカンファレンスしてきた形態ではそれに対応していくのは難しい。当院で進めてきたコンピューターの活用が、今改めて有用であったと認識させられるている。療養病院では、急性期医療を中心とした一般病院より、ケアカンファレンスのような各専門職種間の連携が重要である考える。さらにシステムに改良を加え、各専門職種の資質向上を図り、それらが有機的に機能することにより、より良い医療・看護・介護をめざして行きたいと思う。


[おわりに]

当院におけるコンピューターシステムを活用したカンファレンスと申し送りの現状と将来への展望について述べた。さらに、医療情報部や他職種間との連携をとりながら、より良い看護・介護が実践できるようにしたい。
稿を終えるにあたり、ご指導頂いた上田祐一理事長、山田護院長、ご協力頂いた他部署職員の皆様に感謝いたします。


参考文献
1)高良利実:中規模病院におけるシステム開発、新医療、16、P.91~94,1989.
2)上田祐一:手作りイントラネット医療情報システム.JMS,45.P.37~43,1998
3)田場慎子、具志堅順子:「申し送り」に新たな意義を求めて、看護展望、7.P.37~46、1999.
4)厚生省老人保健福祉局老人保健課:老人福祉計画課:高齢者ケアプラン策定指針、厚生科学研究所、1994.
5)田場慎子:パソコン導入で個別的なケアプランができるのか、臨床老年看護、Vol  7、No.4、P.60~67、2000.
6)John N. Morris、池上直己、他編著:池上直己訳:日本版MDS-HC2.0 在宅ケアアセスメント マニュアル、医学書院、1999.
7)高橋泰:TAI高齢者ケアプランビジュアル作成、日経BP社、1997.
8)バーバラ ブレーデン他、真田弘美監修:褥創ケアアップデイト、1999.

最終更新日: 2008/12/25

 
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