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病棟尿路感染症・呼吸器感染症の発生状況調査

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院
武田・岩品・中野

[はじめに]

 当病棟では一年の間で尿路感染や呼吸器感染により、点滴による抗生剤治療や輸液を実施する件数が急に増える時期があると感じていたが、裏づけとなる統計を取っていなかった。そこで、尿路感染と呼吸気感染の発症状況に特徴はないか調べ、今後のケアに取り入れていくために統計とったので報告する。

[方法]

・対象期間:2009年1月から2011年7月。
・対象患者:期間内の全病棟の入院患者
・データ収集方法:電子カルテ上の医師記録より尿路感染は膀胱炎、腎盂腎炎、尿管炎、UTIの記載があるもの、呼吸器感染は肺炎、誤嚥性肺炎、気管支炎、COPD急性増悪、気管支喘息、喘息、URIの記載がされている患者数を集計。なんらかの抗生剤治療が行われていても記載のないものはカウントしない。
・分析内容:尿路感染・呼吸器感染症別に以下のとおりに行う。
1.月間発生件数
2.院内月平年値
3.院内月間平均値
4.患者特徴分類
5.男女比
6.期間内発生率
 患者特徴別分類は、経鼻チューブ挿入患者、胃ろう患者、膀胱留置カテーテル挿入患者、気管切開患者(人工呼吸器搭載患者含む)、非挿入患者に分類。
 分類上のタグとしてN:経鼻チューブ挿入者、P:胃瘻、K:気管切開患者、F:膀胱留置カテーテル挿入患者、普:非挿入者とする。
 集計の重複を避ける為、2種類挿入者は一つを0.5とカウント。同様に3種類の場合は一つを0.3333とカウントし集計。
 なお「月平年値」は期間内の同月の発生件数の平均値、「月間平均値」はその月の院内での発生件数の平均値である。

[結果]

1.疾患別月間発生件数、疾患別院内月平年値、および疾患別月間平均値
 図1から、尿路感染の平年値を見ると、夏季に発生件数が上昇しているのがわかる。3病棟では、2009年の後半から発生件数が上昇し、年平均および月平均よりも高い発生状況にある。
 図2の呼吸器感染症の平年値を見ると、8月と1月、3月に発生のピークを迎えている。3病棟は2009年後半頃より平年値・月平均値ともに発生件数が上回っており、多発する月のあとに半数以下の発生件数にと減り、翌月にはまた倍増するということを繰り返している。
2.患者特徴分類結果
 3病棟の尿路感染症患者の特徴は、ラベル普、P、F、N,Kの順に好発。P群とN群を経管栄養群とすると、この2群で4割を占める結果になる。また3病棟のF群は21%で、全病棟の16%に比べて高くなっている(図3)。また普群をオムツ・トイレ排泄者としてをみると29%となり、F群よりも高い値となって。これは図4の全病棟での結果でも同様の値を示している。
 呼吸器感染症患者の特徴は、普、P、N、F、Kの順に好発し、排痰などのケアを要するK群よりも、普群や経管栄養群の割合が高いのが予想に反した結果となっている(図5)。また、経管栄養群であるNとPではP群のほうが10%も呼吸器感染を発生している結果となった。全病棟の結果でも同様の値となっており、N,Pの経管栄養群のみで50%近くを占めている(図6)。
3.疾患別男女比
 3病棟での疾患別男女比は、尿路感染症が男46%女54%、呼吸器感染症が男60%、女40%となった(図7,8)。
  4.期間内発生率
 発生率は3病棟では尿路感染が9%、呼吸器感染が13%と、呼吸器感染が多く発生している(図9)。全体でも同様の結果になり、入院患者の2割が呼吸器感染か尿路感染を発生しているという結果になった(図10)。

[考察]

 発生状況をみると3病棟では、呼吸器感染症で発生件数の波が大きく、尿路感染の好発時期と重なることもあり、「爆発的に増える」というのも間違いではないと考える。
高齢者の尿路感染症は複雑性尿路感染症が多く再発や再燃を繰り返すといわれている。予防には十分な水分補給と陰部の保清が必要とされるが、夏季の発生率から、夏場の不感蒸泄量増加に対して水分補給が足りていないと考えられる。現在栄養後の水分は年間通して同量で設定しているが、時期によって水分量を調節する必要があると考える。また経口摂取群も3割近くに上っており、経口摂取患者でも夏季には水分摂取の促しを行う必要がある。
 夏季の不感蒸泄量を抑えれるよう室温を管理するという手段もあるが、体温調節機能の維持や電力コストを考えると、失った水分を補給するほうが容易である。また、3病棟F群の値が21%で全体の16%という結果から比べると多く、トイレ利用者が多い普群でも29%の発生率である。尿路感染症は上行性感染によるものが多いとされ、オムツ着用者もトイレ利用者も陰部の保清が保たれているのかケアの内容や環境を見直す必要がある。
 呼吸器感染症は夏季にも増加しているが、夏季はエアコンを入れて室内を締め切る時間も長くなるためエアコンによる感染の可能性があると考える。夏季の肺炎には、夏型過敏性肺炎があり、エアコンが原因となることが多く、5月~10月に症状が現れることが多いとされる。原因となるカビは20~30℃、湿度60%を超えると発生しやすくなる。北部地域の5月~10月の平均気温は23℃~27℃、湿度は70~80%とカビの発生しやすい環境である。クーラーの設定温度を決めているが、湿度への注意はされていない。沖縄は他の地域よりも高温多湿地域であり、夏季の湿度へのアプローチと除菌・防カビ対策は重要だと考える。
一方、高齢者の呼吸器疾患の特徴に誤嚥性肺炎があげられ、先行調査によると、入院を要した市中肺炎の約60%、院内肺炎のうち約87%が誤嚥性肺炎であったとの報告がある。このことから、対策には誤嚥性肺炎予防を行うことが必要と考える。
 誤嚥には不顕性誤嚥と胃食道逆流(GER)によるものがあり、食事の際にむせこむ顕性誤嚥よりも、夜間の不顕性誤嚥が肺炎の原因であるという。図5でも上気道に異物を挿入しているN・K群より普群での発生率が高い結果が出ており、不顕性誤嚥による肺炎を防ぐために、口腔ケアが重要と考える。先行研究などでも、口腔内の清潔を保つことで微量誤嚥を起こしても肺炎の発症を防ぐとされ、口腔ケアや歯科診療による肺炎の予防は、ここ数年の老年医療における最大の進歩のひとつといわれている。
 もう一つの原因であるGERに視点を置くと、胃瘻患者は他群に比べてリスクが高いといえる。これまで胃瘻は経鼻チューブ留置よりも誤嚥を起こしにくいとされていたが、先行研究によると、胃瘻患者は瘻孔により胃壁の運動が制限され、胃排出機能の低下によるGERを起こしやすいとの報告がある。また別の調査では、液体栄養が少量ずつ胃内へ注入されるためか、胃瘻栄養患者は胃内容物への反応が欠如、あるいは鈍化しているという報告もある。
 このことから、胃瘻患者は先に述べた不顕性誤嚥のほか、GERによる誤嚥も加わった誤嚥性肺炎の高リスク群であるという認識を持つ必要がある。GER予防には、体位の調整を行い、栄養中、後の過度の腹筋緊張を招くのを防ぐことが必要である。病棟では栄養実施中に嘔吐した場合の誤嚥予防でとして、ベッドのギャッジアップと右側臥位をとっている。しかしGER予防の姿勢制御としては胃内容が排出されるまでは側臥位を避けるとある。このことから現在行っている体位変換のケアを一度見直す必要がある。また、栄養物などの一定量が貯留可能かどうか、患者の胃内腔スペースの確認も必要と考えます。
 入院患者数は女性が多いが、呼吸器感染の男女比は男が6割を占めている。これは沖縄県の喫煙率が男性は女性の6倍近くになっていることから、男性患者には喫煙歴による呼吸器のダメージ、易感染状態などが関係しているのかと考えられるが、高齢者における呼吸器感染の男女比の明確な裏づけデータは見つからなかった。

[結論]

 3病棟の尿路感染症および呼吸器感染症の発生件数は院内の平均以上で、夏季と冬季に各々の発生ピークが重なる時期がある。これが「爆発的に増える」と感じる要因になっていた。
 尿路感染症対策として
・主に経管栄養患者の夏季の水分量調節
・経口摂取患者への水分促し。
・患者の陰部保清のケア見直し
・排泄環境は十分に整えられているのか見直す。
   呼吸器感染対策として
・夏型過敏性肺炎を考慮し、室内の湿度調整とカビ対策。
・誤嚥性肺炎対策に口腔内の保清と経管栄養患者のGER予防
・GER予防として、現在行われている体位変換などのケアの再確認。
・患者の胃内腔スペースのアセスメント。
・繰り返す場合の栄養形態見直し。
以上を提案する。
 今回は短期間の統計だが、統計を取ることで疾患別の発生時期や患者の特徴を知ることができた。先に記した提案を実施した際にどれほどの効果が現れるのか見るためにも、今後も院内で継続した統計を取り続けることが望まれる。

  [引用・参考文献]

1)セカンドステージ Dr鷲崎の健康エビデンス 第43回夏型過敏性肺炎http://www.nikkeibp.co.jp/style/secondstage/kenkou/evidence_061011.html(2011年11月19日アクセス)
2)気象庁 気象統計情報 名護http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/annually_s.php?prec_no=91&prec_ch=%89%AB%93%EA%8C%A7&block_no=47940&block_ch=%96%BC%8C%EC&year=&month=&day=&elm=annually&view
3)アボット感染症アワー ラジオNIKKEI2010年6月4日放送 「高齢者誤嚥性肺炎の診断と治療」http://radio848.rsjp.net/abbott/html/20100604.html/
4)寺本信嗣 高齢者、脳血管障害の肺炎-誤嚥性肺炎を中心に Medical Practice Vol.23 No.11 2006 1963-1967
5)小川滋彦、鈴木文子、森田達志.経皮内視鏡的胃瘻造設朮の長期観察における問題点・呼吸器感染症と胃排泄能に関する検討。日本消火器内視鏡学会雑誌1992;34.2400-2408
6)胃瘻栄養でもなぜ重症の誤嚥性肺炎になるのか ~胃電図検査から分かったこと~http://www.seiwakai-akita-no1.or.jp/rouken/record/pdf/h21-1.pdf (2011年11月16日アクセス)
7)厚生労働省:都道府県別にみた基本健康診査における喫煙率(2003)http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/c-hoken/03/hyo2.html (2011年11月21日アクセス)

最終更新日: 2012/09/15

 
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