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平成12年沖縄県介護力協力病院連絡協議会研究発表会

再梗塞から呼吸不全に至ったケース援助

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院 看護婦 寺田礼子

[はじめに](画像①)

高齢化社会に伴い、看護の対象がライフサイクルの最終段階である高齢者の割合が多くなっている。一旦はリハビリ療法を受け努力し、在宅生活を送っていた多くの高齢者の再入院も多々ある。

今回 左片麻痺で自立歩行し退院した一ケースが「頚椎症性脊髄症」と診断され、身体機能が急速に低下し、五ヵ月間で歩行障害から呼吸不全となり長期に人工呼吸器の使用を余儀なくしているケースを揚げ、認知能力は充分にありながら運動障害、嚥下障害、伝達障害、呼吸不全の経過の中で「何を提供したら安心し喜んでいただけるのか?」を模索してきた看護の展開を発表する。


課題(画像2,画像3)

  • 今後予測できる状態の周知徹底。
  • 状態変化に伴う心理的フォロー
  • 状態変化に伴う介護量の増大とその対応
  • 生理的欲求への援助
  • 呼吸機能低下、運動機能低下時の不安感の対応

    経過(伝達)(画像4)

    4月入院時・会話良好
    6月・声も掠れてでない
    7月・ナースコールが押せない→枕とジュース缶で足元に固定し対応
    ・右下肢第1趾で夜間ナースコールが押せない
     →枕とジュース缶で下顎に固定し対応
    8月・声が小さく聞き取りにくい
    ・発声出来ず頷き返答

    経過(活動)(画像5)

    4月入院時・寝返り自立
    ・起き上がり全介助
    ・右上肢挙上困難入院時より筋力低下あり
    5月・平行棒1往復をどうにか行う
    ・授受に歩行困難途中何度か立ち止まる
    ・立位保持困難
    6月・座位にて体幹の前屈困難
    ・平行棒1往復もできずくやしそう
    ・平行棒歩行中止
    ・右手どうにか棒を捕まえるが触れている程度物を動かす事困難
    7月・立位保持に関しても体幹保持困難
    ・座位保持ふらつく
    ・右下肢自力挙上困難→リハビリできないと泣き出す
    ・座位バランス1分
    ・トランスファー全介助
    8月・初期嚥下障害
    ・座位保持10秒
    ・立位時足底部の感覚なし
    ・トランスフアー介助困難
    9月・呼吸筋麻痺自発呼吸なし

    経過(食事)(画像6)

    4月入院時・全粥・副食原形
    ・健側右上肢で自立摂取
    5月・自立摂取時間減少し半介助となる
    ・食事全介助
    7月・「咀嚼しくい」の訴えにて全粥・副食キザミに変更
    ・食事全介助
    ・食事中 嚥下難出現し、経口食中止
    8月・経管栄養食に変更

    経過(排泄)

    4月入院時・便尿意ありポータブル移動介助
    5月・日中ポータブルトイレ介助20時から夜間オムツ使用
    7月・リハビリ室にて尿失禁昼夜オムツ使用に変更


    [看護の展開](画像7)

    1期<1999/04/17~1999/4/26>

    ◇再梗塞の入院であるが前回同様 リハビリを主体とした療養
    ◇在宅の可能性があると本人家族・病棟スタッフともに考えADL改善に目標を置く

    * 再入院で気落ちしていたが、初回入院でリハビリ効果を認識していた為リハビリに積極的に取り組めば 退院できると信じていた。
    * 声え掛け誘導と車椅子の移乗行為の援助が主体であった。
    * 他患や職員に対しても笑顔で対応し病棟の日課もすぐ理解し自己の目標を持ち療養し「励ましの援助」が患者の笑顔を引きだしリハビリ意欲に繋がった。

    2期<1999/04/27~1999/07/22>

    ◇リハビリに主体を置きながらも 次第に運動機能が低下
    ◇移動、食事、排泄、移行の自立動作の減少と介護量の増大期
    ◇リハビリ効果と今後の病状改善に不安を持ち混乱した心理状態

    * 初回入院のようなADLの改善がなく、むしろADLが日増しに低下していく過程となり「焦りと不安」が到来し治療に対する不信
    * ナースコールが押す事が出来ない不安から「不眠・リハビリ意欲の減退」となっていた時期であったが身体的には対症療法、リハビリの継続、数分おきのナースコールの対応、夜間睡眠時の付き添い、頻回のベットサイド訪問生理的欲求の確認と対応と「職員がいつも気遣いしている環境」を提供し、少なくとも身体的生理的欲求に関する不安の援助を目標に置いた。
    * 職員の共通認識が頻回な声え掛け、生理的欲求の援助、自力動作の維持援助と看護の展開となっていったが「根本的な運動機能の低下による不安の軽減」にはならなかった。しかし 患者の欲求に答える事で職員に対する不安な言動はなく、寧ろ「ありがとう、元気になりたい」の言葉が聞かれた。
    * 家族からも介護量が次第に多くなる状況を観て「感謝の言葉」を受け、満足していただける看護が提供できたと評価したい。

    3期<1999/07/23~1999/09/03>

    ◇ADLが全介助状態となり 悲観的な心理状態

    * 四肢麻痺が進行し全介助状態になり発語障害の出現・嚥下障害と頚椎神経麻痺の進行が、伝達機能や生理的欲求の1つである「食べる楽しみ」も失ってしまった。
    * しかし、聴覚・認知機能は健全であり 充分コミュニケーションできる事に重点を置き「患者の笑顔」 から、身体援助の項目や援助手順・楽しい話題を学び、コミュニケーションの援助と生活範囲の拡大に重点を置いた看護の展開を行った。
    * 職員の共通理解として「呼吸麻痺」の予測を念頭に入れ援助した時期であり、患者としては麻痺の進行が全身に及んでいった時期であったが「呼吸麻痺」に陥った前日までリハビリ室でリハビリを受け、車椅子散歩と援助を受容でき提供できた事を評価し、身体機能の低下により「日常生活のQOL」が在宅の状況より低下したとしても、「精神的な社会的QOL」は援助すべき重要な項目と考えて援助した。


    [考察](画像8)

    ヘンダーソンは看護の基礎を「基本的14のニード」と捉え、マズローは「生理的欲求」を土台に据え5段階の「基本的ニード」を説いている。生理的欲求は生命を維持していく為に最低限必要な欲求である。又 常に心理的なよっきゅうと相互に関係している。

    患者は下肢の痺れ感出現に始まり5ヶ月という短期間のうちに「体を動かせない…声が出せない…」といった経過を経てとうとう自力で呼吸すら出来ない状態まで悪化した。身体症状と比例するように感情失禁、数分置きのナースコールと精神的な不安定さも増幅していった。この間のミーテイングのテーマは「どうすれば苦痛を取り除く事が出来るか。どのような対応が喜んでいただけるか」を職員全員の話し合いを繰り返していった。

    これまで生きてきた人生の中で当たり前に行ってきた「食事、排泄、体を動かす事が出来ない」全てを他人にゆだねなければならない苦痛と恐怖は並大抵の事ではない。マズローは、人間の欲求を5つに分類し、それらを段階的に分類し上段に位置する欲求が満たされる為にはあらかじめ下段に位置する欲求が満たされなければならないとし

    * 第1段階の生理的欲求は生存する為の必須条件であり、この生理的欲求の上に
    * 第2段階の安全の欲求
    * 第3段階に愛と所属の欲求
    * 第4段階に自尊心の欲求
    * 第5段階に自己実現の欲求

    と看護論を説いている。

    YUさんも1期では「第5段階の自己実現の欲求」を持ちリハビリに励みADLの自立を目標としていた。2期においては第4段階の自尊心、第3段階の愛と所属、第2段階の安全の欲求を他人にゆだねなくてはならない状態になり、3期は第1段階の呼吸、食事の生理的欲求も医療機器が必要となった。しかし話が出来ないという伝達障害があっても「話を聞く、理解する、瞬きする」が充分に機能している。

    今後も「どうすれば苦痛を取り除く事が出来るか。どのような対応が喜んでいただけるか」をYUさんに教えていただきながら「精神的なQOL」の 自己実現、自尊心、愛と所属の欲求の看護の展開を継続したいと考えている。


    [まとめ]

    この症例をとうして、職員が共通な認識を持つ大切さ、生理的欲求、安全の欲求を援助する事大切さ、障害があっても健康な機能や能力に対して 最大限に働きかける事の大切さ、このような基本的な事柄を改めて 学習できたと思います。

    最終更新日: 2008/12/25

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