もとぶ野毛病院
医療法人 野毛会 もとぶ野毛病院 POS課長 田場慎子、看護課長 具志堅順子
表 病院概要
|
1.オーダーリング用紙(94年〜)
医師の指示簿をコンピュータ化し転記作業(処方箋など)を減らした。また他の部署からも参照可能であるため、病棟情報のネットワーク化が始まった。患者ごとの指示項目をプリントアウトすることで、朝の申し送りでそのつど患者の指示をメモする必要がなくなり、オーダー確認のためナースステーションに戻ることもなくなった。看護記録も記入できるオーダーリング付き看護記録(以下、オーダーリングと略す)を作成し、病室でオーダーの確認や看護記録を直接記入しカルテに保存することで、勤務交代時の看護記録の作成をやめた。
このオーダーリングは1日分なので、勤務交代で手渡されるので申し送りにもよい影響が出た。さらに前後あわせて2日分のオーダーが印刷されているので指示の変化も読み取ることができ、従来の「申し送り」の意味を考えるきっかけを与えてくれた。その後も、この用紙に「看護」という項目を追加し、看護計画のプランを入力し、情報も増やした。看護計画を詳しく見る余裕のないときでもベットサイドで概要だけは把握できるようにした(図1)。
またこの手書きの看護記録を3ヶ月にわったてすべてデジタル入力し、使用している看護用語を検討していたところ、病棟で疑似O-6が発生した。検査結果は発生日より1週間後であるから、手書きのカルテから調べるので人海戦術でしかできない、コンピューターを使うと症状として発熱と下痢、発熱と下痢(−)、平熱と下痢の関係が、数分以内に過去2週間全入院患者で判明し、即座に伝染性を否定できた。
2.高齢者ケアプラン(94年〜)2)
94年の診療報酬改定で、老人病棟入管(T)において「看護・介護計画」の策定の義務付け以後、高齢者ケアプラン(MDS-RAPs)を手作業で策定していた。データ入力から選定表、問題領域の確定までコンピュータ化が行われ作業時間の驚異的な短縮が行われた。それまでのナース作業は一体何だったのかと自問せざるを得ない体験であった。細部に改善点は考えられるものの患者の状態把握には学ぶべき点が多い。さらに入力したデータからコンピュータで左辺に問題領域、中央に106の要素のグラフ表示、右辺にリハビリの関与を一括して図(患者状態一括表示、図2)で表示されると、従来の看護認識・患者把握には不十分さがあったと認めざる得なかった。
申し送り方法にも影響を与えたばかりか、事務部門でも入院患者把握が簡単に行われ、看護業務の評価にも活用された。アセスメント項目のA群(生活環境)は入院時だけの情報収集でよいと成書に書かれていたが、事務部門から患者と家族との関係であるからよりよい関係をつくりひいては入院費の支払いをスムースに運ぶため努力してほしいとの提案がされ、毎回アセスメントすることに変更した。また病棟へのリハビリ部門の関与が注目され、病人の看護から生活の看護へと認識を広げるきっかけとなった。
3.温度板のコンピュータ表示(95年〜、図3)
オーダーリング用紙に記入されているバイタルサイン(以下、VS)を入力するとコンピュータ画面に温度表が表示されるプログラムができあがると、初めは心理的な抵抗感がありコンピュータ活用にやや消極的であったが、病棟にシステム部門の職員の配置する事で、何とか軌道に乗せるところまではできた。無論、他の部署でも画面表示されるので、患者の状態についての情報を病院全体で共有することが可能となった。メールつきリアルタイムカード(96年〜)も開発され看護婦がコンピュータに触ることが多くなり、今では温度板の手書きがなくなるとともに、申し送りに温度板探しも、奪い合いもなくなった。
後で述べると5.と6.と連動して、コンピュータ活用で看護業務がどんどん変化し、その度にPOSで事態に対処した。個々の患者データの入力改善とともに集計業務もコンピュータ化され、当日の有熱者一覧、高血圧者一覧がリアルタイムで表示されると、病棟全体の情報が容易に把握されるようになった。そのため、個々の患者の申し送りの意味も再検討され個別方式から全体把握方式、記憶・メモ読み上げ方式から画面確認方式へと変化した。病棟情報の院内共有化の進展に伴い、栄養科、薬剤科、リハビリ科の職員の病棟関与も増え病棟だけで使っていた温度板も、院内共有の温度板へと位置づけが変わった。
4.携帯端末看護ノート
オーダーリング用紙方式を発展させて病棟で直接入力できる方式として、シャープ社のZaurus6000という端末機をもちいてVS、食事摂取量、尿便排泄量と回数、酸素供給量、血糖値がベットサイドで入力できるようした。選択法式を採ることによって記載の統一化が行え、さらに用紙で限定される記載量もほとんど制限がなくなった。何を入力するかの検討の結果、状態記録として意識・生活・ADL・呼吸・消化器・尿・疼痛・表情・睡眠・痰・排泄・便・肌色・体感・脈拍の16観察項目を、各々が部位・度合い・生活範囲・自立度・援助レベル・理解度・性状等が画面タッチ方式で入力出来るようにした(図4)、
この16観察項目には「看護判断・処置・報告」の画面で、症状なし(0)、経過観察する(1)、看護判断でケアを行う(2)、条件処置を行う(3)、Drへ報告・経過観察(4)、Drへ報告・処置を行う(5)、の入力を行うことで観察項目での判断を記録することが可能となった。
看護ノートの導入により看護記録は一変したが、約1年の使用経験から、大半の入力はトレーニングされた介護者が受け持つようになった。この経験から看護婦が直接看護を行うときは准看護婦・介護者に、准看護婦は介護者に教えながら行う原則が生まれ、職業としての看護業務と実際の看護行為との調整が図られるようになった。
5.手作り院内イントラネット医療情報システム(95年〜)3)
インターネットが世間の共通語になる前から、院内ではシステム部が中心となって病院のホームページをつくりあげた。イントラネットが浸透していくと、各部署がそれぞれのホームページを自作し、自己紹介、マニュアル、お知らせ、会議報告等が載るようになった。業務から趣味まで、技術を凝らしたものからシンプルなものまで、つくる職員の個性が発揮されていった。従来使っていた患者検索、情報検索、検査予約、状態一括表示、温度板などは次々にイントラネットでできるようになり、ネットワークオンパレードとなってしまった。そのなかで、知らない、見てない、聞いてない、とはいえなくなってしまったし、病棟の内容がすべての職員周知のこととなり、かえって病棟側からの独自情報発信を求められるようになった。
考え直してみればPOSの基礎POMRを始めたDr.L.Weedは、コンピュータによる記録がPOMRを支える手段と考え、当時のはやりのプログラミング言語MUMPSを使っていた。刻々として変わる患者の状態、部署の状態、病院の状態が共有されることにより、より適切な判断や行動が起こせると実感した。専門分野の異なる職員が思考の過程、実践、評価を共有することで、より質の高い業務が遂行できることもわかった。現在でもネットワークを十分に活用している自信はないが、活用せざるを得ないとの認識だけはしている。コンピュータネットワーク時代のPOSの実現に向けその第1歩を踏み出したところである。
6.Visual版ケアプラン(「TAI高齢者ケアプラン作成」を改変。99年〜)
高橋等4)は高齢者ケアプランのMSD-RAPsとは違う方法で「TAI高齢者ケアプラン」を開発した。タイムスタディをもとにした独自のレベル判定、タイプ別、老化過程図は明快で、介護者でも十分に活用できるものである。さらに記載の方法がプログラミングしやすい特徴がある。当院でイントラネットで活用できるものに改変し使用させていただいている。
MDS-RAPsは3ヶ月に1回とされており、頻回行うには360項目は多すぎて時間がかかりすぎる欠点がある。その補完とケアプランの一般化が容易に行うことができた。たとえば、食事に要する病棟全体の時間が算定されると、職員配置の検討も可能であった。また介護者が自ら判定し、老化の過程を進めない・改善する方向で介護し、再評価できることもわかった。看護婦がその全過程で指導することも容易になった。
1.療養型病棟
申し送りの前、各自病室の巡視し、患者の状態を観察する。看護システムから各自情報収集し、その後、言葉での伝達で看護判断の根拠・想い等、記録に残し得ない内容を口頭で行っている。また他の部門の専門職種の人たちと共に、患者を取り巻く様々な事柄や状態・援助・治療を確認し、お互いの役割が円滑に遂行するようミーテイングを行っている。この場では職員交流からコンピューター画面の一括表示での状態変化・介護量・リハビリ時間の検討・各勤務帯の総括・専門職種の提案・カンファレンスに向けての情報収集の場でもある。また流動的に動いている病棟において唯一、集まりやすい時間帯でもある。これは介護中心の療養型病床群では、欠かしてはならない時間帯と考える。
また介護者中心に夜勤帯の30分程度で「TAI高齢者ケアプランビジュアル作成」を使って介護度を作成するようになり、介護方法や介護量を検討する姿勢が養われ、ミーテイングでの発言もその根拠と介護手順がより具体的になり説得力を持つようになった。このように、介護中心の療養型病床群では、より多くの専門職種が参加し日常的に交流できる場を持つことが、幅広い患者援助に繋がると考え、情報収集からミーテイングへと「申し送り」形態は変化した。
2.療養型にちかい一般病棟
従来の申し送りでは1時間以上かかり、最低でも患者に関する申し送りに30分余り、病棟運営および看護職員に関する申し送りに12、3分で、45分は必要で、患者一人一人づつ口頭で行う方法であった。
情報の分類と伝達の方法(口頭伝達、ホワイトボードに表示、紙面で掲示など)の見直し、および情報収集源となる看護記録の充実(コンピューター記録の充実、オーダーリング用紙の利用など)した結果、申し送りに要する時間は10分ほどとなった。その内容は、看護職員のコミュニケーションを図る目的で、スタッフの心身の状態が健全に保たれているか確認し、さらに勤務がこれから始ろうとするときの志気を高めるようにしている。そのあとミーティング(30分)で活躍するのがコンピューター画面の状態一括表示である。3ヶ月毎の患者の状態変化がグラフになっているので、問題領域が一目でわかる。看護婦もいかにコンピュータの活用をするかが問われる時代となった。