ダイオキシン汚染
         ― 地域保健の立場から ―

担当理事 上田裕一


 公害問題が注目されて久しい。古くは四日市喘息、水俣病などが有名で、医療人として 看過出来ない問題であった。しかし、それは加害者とか、責任の所在は医療機関とは別で 、医師は被害者たる患者さんの治療にあたればよかった。近年のスモン、薬害エイズなど では加害者でもあり、治療者でもある立場になってしまい、医療人が『良きもの』として は評価されない面が出てきた。
 さて近頃問題とされている、ダイオキシン汚染ではどう であろうか?
 本年8月、米国インディアナポリスで開催された国際ダイオキシン会議では、ダイオキ シンの人体への影響は癌や奇形の発生のみならず、わずかの濃度で精子数の減少、子宮障 害が起きると報告されている。日医で少子化問題のシンポジュ−ムも開かれ、少子化社会 が超高齢化社会・人口構成の歪みとの関係で、医療人としても多大な関心を寄せる段階に きた。社会現象としての少子化に加えて、ダイオキシン汚染による人体への障害だとした ら地域保健の立場から問題とせざるを得ない。
 各国の焼却場のダイオキシン排出規制は、1986スエ−デン0.5ng〜2ng、1991ドイツ0.1 ng、1995米国0.2ng〜3ngと先進国では早々と対策を立てている。ひるがえって日本では 昭59年からずっと1250ngでやっと1997年12月から従来の焼却場では80ng以下、新設では規 模により、1ng、5ng、10ng以下とされ、それも5年間の猶予がついている。
 過去の対策の責任問題もあるが、ここで強調しておかなければならないのは公害が大気 汚染として人体に影響すると考えやすいことである。確かに四日市喘息が日本での公害の 発端だから致し方ない面もあるが、すでに水俣病では、河川や海への流出そしてプランク トン→魚→人間を含めた動物へと食物連鎖からとらえなければならなかった。食物連鎖が 関与すると、魚には海水の3000倍の濃度になってダイオキシンが蓄積される。
 S59年に日本ダイオキシンの専門家会議で1250ngという数値を出したのは大気汚染のみ の推計であり、まったく根拠がない。それも平成6年に再度会議を行っても訂正もされて いない。日本の近海の魚のダイオキシン汚染調査が本年度中には行われるが、その結果を みてなどとアンノンとしてはいられない。欧米と比較し桁違いのダイオキシン汚染だから だ。
 また公害というと「私には関係ない」と心理的に感じやすいし、責任の所在が不明瞭に なり対策が曖昧になってしまうことも注意が必要だ。ダイオキシンの発生は、@塩化ビニ −ルの焼却 Aビニ−ル系と食塩含有物(生ゴミ)の焼却が関係していることは諸兄も周 知であろう。さらに焼却炉の温度が800℃以上に上がらずに250〜400℃で発生しやすく,そ の主たる原因が水分の多い生ゴミである。
 医療機関、特に入院患者を持てば当然、給食残査物が出る。おおよそであるが、150人の 入院患者から平均80s/dayの生ゴミが排出される。1ヶ月2.4dである。医療機関の出す生ゴ ミは給食受託業者や近くの養豚業者が処理するから責任はないのだが、生ゴミ自体は医療機 関の産業廃棄物であるから、その処理の責任は生じる。よく調べると、多くは焼却場に持っ ていくだけで、養豚に利用されリサイクルする量は少ない。 医療機関が出す生ゴミがダイオキシン汚染の原因となっていることはいなめない。それが癌、 奇形を発生させ、日本人の生殖機能に障害をもたらすなら、生ゴミを出す医療機関は何らか の対策を考えてしかるべきであると考えるのだがいかがであろうか。
 地域保健の担当理事としてこのような発言に及んだのには、生ゴミは産業廃棄物として捕 らえるよりダイオキシン汚染問題として捕らえた方が会員各位に納得いただけると考えたか らだ。まずは、病院の生ゴミがどう処理されているかに関心を持っていただき、何床の病床 で、毎日何sの生ゴミが出ているか、その処理は結果としてダイオキシンを発生させていな いか、養豚業者が実は単なるゴミ収集して焼却場に持っていていないか、給食受託業者はダ イオキシン汚染防止策を取っているか、ダイオキシン対策の費用は等々。
 担当理事のところまでFaxをいただきたい。その上で必要とあれば理事会に計り各地区担当 理事会議、病院部会と協力して抜本的な対策を講じたい。
 尚、この提案は2人の医師会役員に触発していただいた。
お一人は日医の小池麒一郎常任理事である。本年2月にお逢いしたとき、少子化問題は是非 とも日医として取り上げると決意を示され、ダイオキシン汚染との関係を教示していただい た。
 もう一人方は、福岡県医師会の中村常任専務理事である。
 先達の5月の九医定例委員総会の懇親会の席上で生ゴミ処理を中心に「地球環境に優しい」 病院作りのお話を伺うことが出来た。先生のところでは病院の生ゴミは堆肥化して土にもどし ていると熱く語ってくれた。当方での経験談も心良く聞いていただいた。病院の生ゴミを好気 性処理して、病院の生ゴミだけでなく職員の家庭生ゴミへも広げさらに地域の生ゴミ(病院の数 倍)まで処理している状況をお伝えした。(http://noge.or.jp/jyouho/gomi/gomi.html)次にお 逢いしたとき、先生のところでも職員にまで広げ、さらに患者さんに出来た肥料を使ってもえ るようにしたいと話しておられた。(http://www.sphere.or.jp/kdh/iso.html)
 医師会の組識的行動となる前に、自発的な各医療機関の努力が望まれる事態であると考える がいかがであろうか。
 会員各位の御意見をお待ちします。