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中規模病院におけるシステム開発

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院 システム推進担当 高良利実
新医療、1989年7月号、P91-94 掲載

[はじめに]

もとぶ野毛病院は、沖縄県本部町に、昨年6月に開院した病床149の病院である。
院長は、この町において、4年間のクリニック時代の診療により、新たな地域医療の重要性を痛感し、病院化した。病院建設にあたっては、患者中心とした温かい医療 (ヒューマンケア)を行なうことを目標とした。
目標を達成するため、従来の病院にはない特徴を加味した。ハードとして建物やコンピュータシステム、ソフトとして医療類似行為、すなわち、漢方、鍼、操体等も取り入れることである。
建物は、海岸沿いに建ち広々とした敷地に2階建てでモダンな造りである。特に外来待合いロビーは、2階吹抜けで2階病棟へ向かう緩いカーブの階段は病院とは感じさせない雰囲気である。
また、2階病棟からの眺めは素晴らしく、青々とした海が1面に広がり、その向こうには、伊江島や水納島、海洋博覧会で有名になったアクアポリスが見わたせる病院らしからぬ病院とした。
コンピュータシステムとしては、これまで中小病院においては、医療業務が殆どであり、部門間のオーダーシステム、患者の病歴管理までは、なかなか手が届いていない。
温かく、しかもきめ細かい地域医療を行なうには、病院職員の資質もさることながら、その能力を充分に発揮できるバックアップシステムが必要である。診療は、受付から始まるとの考えから、そこで入力された患者情報は、すべて医療側に伝達され、医師、ナース、その他の医療職による医療及び看護のチームプレイが出来るような病院コンピュータシステムの開発を目指した。
このシステムは Dr.Weedの提唱した問題指向型システム(POMR)を基本として患者の問題点をより明確にし、さらに患者に行われた診療及びケアの内容が分析・評価出来るように考えた(図1参照)。 今回は、システムの概要、システムの現状について述べる。

図1 POMRシステム形態


[目標としてのSIHSの概要]

 病院内のLANシステムの名称をSIHS(Super Intelligent Hospital System) とした。SIHSは、医療事務、経理や外来、処方箋、栄養管理、薬剤管理、X線オーダー等従来からコンピュータ化が可能とされている部門を含むと共に今までコンピュータとなじまなかったカルテの領域までPOMRを基本にファイル化して病院内のコンピュータネットワーク(LAN)へ乗せる。トータル的なシステムを目指し、1度入力したデータは、他の関連するデータベースに直結され管理プログラム等の自動化が次々と実現する。 SIHSは、これからの医療情報システムである。また、このシステムは、分散処理で行い、ファイルも処理も1台のホストに詰め込む必要もなく、コントロール関係の煩わしさからも開放、時間も短縮される。 医療の中心たるカルテがコンピュータ化されることによりはじめてインテリジェントホスピタルの道が開けるのである。


[機器構成]

 SIHSを実現する為に次のようなシステムを構築した。
 計算機システムは、SONYの 32bitワークステーションNEWS4台(総記憶容量50 0MB)をイーサーネットによって結合し、病院内LANシステムを形成した。停電に備えてNEWSには、バックアップ電源を設置した。
 端末には、富士通のパソコン FMR50を10台用い RS232C で接続した。また病棟のプリンターは、音が静かで高速で印字のきれいなレーザプリンタを用いた。(図2)
 オペレーティングシステムには、最近注目を浴びているUNIXを用い、データベースには、リレーショナル型のソフトウェアであるINFORMIXを使用した。またきめの細かいプログラム開発には、C言語を用いた。

図2 システム構成(1989年5月現在)


[SIHSの発達段階]

 SIHSの発達は、次のような段階に分けることが出来る。(図3)
 第1段階は、コンピュータを単独で用いる方法である。現在、文章作成、給与計算、レセプト発行は、この方法で行われている。
 第2段階は、電子メール等のUNIX(OS)の利用である。電子メールは、相手が不在の時にでも送ることができ、受取側では時間のあいた時に読むことが出来るので、仕事の混雑を防ぐ事が出来る。院内の連絡事や病棟への緊急検査結果の報告は、この方法で行っている。
 第3段階は、オーダーシステムの利用である。内容は、殆ど電子メールと同じであるが相違点をあげると1つは、送る書式が決まっていて依頼項目や氏名がコードで呼び出せることと、もう1つは、送った内容が日付と共にデータベースの中に保存されることである。
 第4段階は各セクションのデータ管理システムの構築である。現在登録されているデータは、患者登録、入院処方箋、入退院表、検査データ(尿、CBC、その他)、オーダーシステムで送ったデータ等である。これらのデータを元に、薬剤在庫管理、レセプト発行等のプログラムに結び付ける。
 また、次段階のカルテ部門の個人ファイルの一部となる。

図3 SIHSの発達段階


[システムの現状]

現在、おもに使用しているシステムは患者登録、検尿システム、CBCシステム、X線オーダ、処方箋システム、入退院システム等があげられる。POSの方は、1/3は、完成しているが基礎データ(DATA BASE) の入力量が膨大なことやスタッフの要員不足の為開発が遅れ活用までには、まだ時間がかかりそうである。現在キーボードを使いこなすまでにはきており近い将来は院内LANのメインになるであろうことを強調しておきたい。
以下に、現在使用しているシステムを紹介する。

1) 電子メール ---- メッセージの伝達
各セクション、又は院内に関する連絡事項を送ることが出来る。内線電話とは違い、一度に複数のセクションへの伝言ができ、また相手が不在でも送れる留守番機能が出来る。

2) 患者登録 ---- 新規で来院する患者を登録する。
このデータは、重要なデータベースの一部であり、そのままPOMRの患者IDとなる。登録内容は、カルテNo、初回来院日、フリガナ、氏名、性別、生年月日、現住所、電話番号等である。

3) 検尿システム ---- 尿検査結果の報告
検査室で、尿検査報告画面を呼び出し、カルテNoと検査結果を入力し登録すると瞬時にその画面が診察室へ転送される。看護婦はそれを見てカルテに記入する。

4) 入退院システム ---- 入退院の表示・作成
入院が決まると即、受付でカルテNoを登録する。日付はデフォルトで当日の日付が入る。病室が決まると病棟で病室を入力、退院時には、病棟で退院日を入力する。各セクションで入院状況(部屋別、五十音順、日付順)入退院表(部屋別、五十音順、日付順)を画面表示することができる。

5) 検査センターとのオンライン ---- データの受取、照会
電話回線を使用し検査センターでのデータを毎日2度に分け受け取り、結果を報告書に打ち出している。
又、データを受信した端末では、時系列表示、グラフ表示等の照会が可能。院内LANとはフロッピーディスクによりデータを受け渡し各端末で結果を照会することが可能である。

6) CBCシステム ---- CBC検査結果の報告
検査室で、CBC検査測定値を入力すると各セクションで結果をディスプレイすることが出来る。病棟のレーザープリンタで結果報告を打ち出し翌朝カルテに貼付ける。伝票が廻るのでなく、情報が廻るシステムである。

7) 処方箋システム ---- 処方箋の作成
外来、病棟で患者の処方箋を入力する。薬剤部での画面表示及び、処方箋をプリンターで打ち出す。

8) X線オーダー ---- X線の依頼
診察室でX線オーダーの画面を呼び出し、カルテNoと撮影箇所、方向、コメントを入力し登録すると、瞬時にその画面がレントゲン室へ転送される。
又レントゲン室では、終わったデータを一時ファイルへ落とすので、診察室では、レントゲン室の混み具合いが一目でわかる。
又、撮影条件を追加入力し、レントゲン照射録としている。

9) 検査オーダー ---- 検査の依頼
診察室で検査オーダーの画面を呼び出し、カルテNoと検査項目を入力し登録すると、瞬時にその画面が検査室へ転送される。

[システムの利点・問題点]

利 点:
 LANを導入したことで、データ管理はもちろんのこと数々のメリットをもたらした。特にオーダーシステムは、効率化が図られた。以下にその利点をあげる。

1) レントゲン、検査、理療、薬局への各依頼書を作成する必要がない。
2) 依頼伝票の持ち歩きは、一切必要がない。
3) 転記や集計作業は、コンピュータにより自動的に行われる。
4) 即コンピュータ入力の為に改めて伝票よりの再入力を行う必要がない。

オーダーシステムの利点は単にこのような伝票操作の効率化のみにとどまらない。
将来は、他のデータベースと直結され予算管理、薬剤在庫管理、レセプト等が自動化されることも可能である。又、実態と帳簿が異なることも少なくなる。
従来、地域医療は人海戦術であった。再診日の決定も、処方箋日数から、又、慢性疾患の定期的診療も、前回受診から計算され、受診日以前に患者に知らせ、再診をうながすなど将来に向けて期待が懸けられる。

問題点:
1) 医療における従来の考え方、慣行、法律 などが新しい時代のこの方法に馴染めない部分があり、職員の意識、理解度がそれぞれでレベルをすぐには一致させにくい。
2) データ入力は、慎重にしかもスピーディーにもれがなく共通の型で入力しなければならない。入力者が一人でも誤るとデータの信頼性は薄らぎ、場合によっては、全体のシステムがメチャクチャになってしまう。
3) 医療関係者においてコンピュータに精通する人が少なく、入力するスタッフは育成出来るが、現場に側したソフトの開発を医療担当者が直接行うまでは至っていない。心強いのは、院長が琉球大学電子情報工学科の講師も兼ね、システム設計からプログラム作成まで指導している事である。
4) 開発されたソフトを使う段階からソフトを開発して使う段階へと発展するまで時間が必要である。


[まとめ]

他の中小病院に先がけて、開院約1年前に、LANを実験的に導入した。ソフトウェアの開発は、ユニソフト(株)と共同開発で病院独自のシステムを作り上げてきた。
SIHS完成までには、まだ時間がかかりそうだが、現時点のオーダーシステム等は、数々のメリットをもたらした。
職員や看護婦も最近では、さりげなくコンピュータを操作し使いこなしている。入力ミスも大部減り、現時点でのLANシステムをフルに活用している。
もとぶ野毛病院の病院情報システムは次なるステップへ向け着実に発展するし、開院後1年未満ではあるが、LAN導入は間違いなく成功したといえる。
今後、早急に開発したPOMRのプログラムを実行しやすいように改善し、医師、看護婦、その他の職員にLANの目的、重要性を明確にし、さらに使いやすいシステムに職員全員で作り上げて行きたい。今後とも、職員全員のLANに対する理解と協力を担当者として願う次第である。
当院が、努力を重ね試行錯誤を繰り返しながら開発を進めているシステムが、これからの中小病院のコンピュータ化に貢献できれば幸いである。

最終更新日: 2008/12/25

 
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