ロゴ 
トップページ 
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
経管栄養患者の水分をお湯に変え、体内から温めることを試みた
~東洋医学の思想を参考にして~

岩品拓郎
豊里友輝
高良亜紀乃

[はじめに]

 当病棟では、入院患者60床のうち半数が経管栄養となっているが、年間を通じて投与される栄養や水分の温度は常温もしくは冷温であった。
 2011年4月以前まで経管栄養は冷蔵庫保存されたものをカップに移して投与していたので、準備段階では冷たい状態だった。そんな中、2010年ごろに「白湯健康法「白湯ダイエット」などの白湯を摂取することで体内の体温を上げて免疫力を上げる、減量するといった方法が話題になっていた。
 そこで、尿路感染症(以下UTI)と呼吸器感染症(以下URI)が流行しやすい冬季に限定し白湯健康法を経管栄養患者に導入し、その効果を確かめることにした。

[研究内容]

 実施期間:2012年11月~2013年4月まで同年5月は気温上昇のため水かお湯かは各自に任せ6月からお湯の投与を終了とした。
 実施方法:経管栄養患者の食前及び食間の水分温度を50度で10L入りの薬缶に準備し栄養ボトルに各々の実施量をいれる。注入速度はクレンメ全開~40ml/分ほどとする。
 比較方法:実施期間中の抗生剤注射治療が行われた患者のうち、UTIとURIをそれぞれカウント。カウントは医師記録上に疾患名の記載と抗生剤注射実施の記載があるもののみをカウントする。
 患者の内訳は、経鼻チューブ留置をN、気管切開をK、胃瘻をP、膀胱留置チューブをF、何も留置・設置していない者を普とタグ付けして分類した。
 なお2011年1月から2012年5月の期間は一部スタッフがお湯投与を実施していたため、中途介入ではあるが比較対象群としてカウントする。カウントした数値は2011年3病棟の院内研究結果と比較し考察を行う。

[結果]

 カウント対象となった件数は、非介入時期と比べると大きく減少しているが、5月に急上昇している。UTIとURIの疾患別で見ると、UTIの発生件数が非介入期間に比べて0件~3件と大幅に減少しているのが分かる。URIも減少しているが、UTIほどの減少率ではなかったことと、5月の発生件数が大幅に増加しているのが特徴である。
 発生患者の内訳では、UTI・URIでも経管栄養患者の発生割合に大きな変化が見られなかった。しかしUTIではF群の増加、URIではP群の減少とN群・普群の増加がみられた。お湯投与の介入終了後の抗生剤注射使用件数を調べたところ、5月以降は介入期間と比べ2倍以上の高い値を維持していることもわかった。

[考察]

 今回参考にした2010年ごろに流行した白湯健康法は、インドの伝統医学のものでその理論は独特のものがある。しかし、わが国で古来から取り入れられていた東洋医学でも冷えは万病の基とされ、熱を上げることによる治療や養生法は常識とされている2)。この熱を高めに維持することが免疫力の強化につながるという理論は現代医学でも取り入れられており、20世紀初頭には高体温にすることで悪性腫瘍患者に有効だとする報告があった3)。
 一般的に、冷たいものを摂取すると「腹が冷える」といった腹部症状がでると考えられている。しかし東洋医学では体が冷えたり飲食により内臓が冷えた影響は、肺が受け次に大腸に伝えるとされ、影響を受けるのは呼吸器が先である4)。また、春は風邪(ふうじゃ)、による病(主に上半身への影響、咳嗽、鼻づまり、)を冒しやすいとされている5)。総発生件数を見ると、4月までは順調な結果を残しているが、UTI・URIともに5月に発生件数が急上昇してしまっている。これは、5月に入り気温上昇のため水の投与も行われ、冷える機会が増えたといえる。お湯の投与を完全に終了した6月以降には抗生剤注射の件数は倍以上に増えていることからも、冷えによる影響があったと考えられる。
 患者の内訳の変化を見ると、UTIとURIで介入を行った経管栄養患者P,N群の比率が下がると思っていたが、大きな違いは見られなかった。だがURIでは過去の集計で24%を占めていたP群の割合が下がっている。経管栄養実施前に白湯の投与を行うことで胃の動きが活発になり逆流性誤嚥が誘発されにくくなるという研究報告がある6)。このことからP群に多いとされている胃食道逆流からくる誤嚥性肺炎が予防されたといえる。UTIは発生件数自体大きく下がっている一方でF群が増加している。URIでもN群が増加しているが、どちらも上気道や尿路への異物挿入を行っている群である。鼻腔~食道への異物挿入状態による炎症・細菌類の発生などが起こりやすい状態であったためと考える。これにより発生件数自体は減少しているが、異物留置による感染の影響は大きなものであることが確認できる
 温かいものを摂取する機会を増やすために注入する栄養自体の温度をあげて投与することは、熱を加えることによる淡白成分などの凝固や酵素類の変化をおこしてしまう。さらに別の研究では栄養注入時の滴下速度(200ml/h)では栄養ボトル内に暖めたものを準備しても胃内へ入る時には常温に下がってしまうため意味がないという報告7)がある。

[結論]

 経管栄養患者への水分温度を換える(お湯にする)だけでUTI・URIの発生件数を抑える効果があった。投与する水をお湯に変えるという安価・手軽な方法で患者の感染予防を行うことが出来る。東洋医学の養生法は治療行為ではなくケアとして実践できるものが多い。療養病床での看護ケアに東洋医学を取り入れていくことも有意義であるといえる。

[引用・参考文献]

1)2)蓮村誠「白湯毒だし健康法」PHP研究所  2010
3)石原結實「体を温めると病気は必ず治る」P19 ~P23 三笠書房 2003
4)5)島田隆司「黄帝内経素問現代語訳」南京中医学院 1991
6)笠間睦 他 経腸栄養剤投与時の白湯注入方法に関する検討 日本医事新報第4520号 P60-64学術.2010
7)経管栄養における一考察(その1) 神戸市立看護短期大学紀要 第2号.1983.3

最終更新日: 2014/10/18

 
Copyright (C) 2005 Motobu Noge Hospital. All Rights Reserved.