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当院禁煙外来の傾向と禁煙支援
-ニコチン依存症 行動変容 喫煙欲求コントロール-

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院
中曽根佳代子、武田由起子、小那覇江美子

[はじめに]

 たばこ産業の「平成21年全国喫煙者率調査」によると日本の成人男性の平均喫煙率は38.9%で減少傾向にあるものの諸外国に比べるとまだ高く、成人女性では11.9%でほぼ横ばい、若年女性では増加していることがわかっている。
1)2003年5月に健康増進法が施行、受動喫煙防止の努力義務が規定され、2006年4月からニコチン依存管理料が保険適応となり禁煙治療を受ける外来患者のうち一定の条件を満たしたものに対して保険給付される。保険診療の対象患者は、
①ニコチン依存症に係わるスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断される
②ブリンクマン指数(1日の喫煙量×喫煙年数)が200以上であること
③直ちに禁煙することを希望している
④「禁煙治療の為の標準手順書」に沿った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文書で同意している。
この全ての要件を満たすものであり12週間で計5回通院するプログラムで行うことが条件である。
2)当院は2010年1月から敷地内禁煙が実施され4月から禁煙外来開設。禁煙補助薬(チャンピックス)とCOチェッカーを併用し治療を行っているが多彩な患者層に対して適切かつ効率的な支援が行えているのか現状を振り返る。

[Ⅰ.本研究における用語の定義]

・禁煙成功者:保険診療期間中に禁煙継続できた者+治療中断者で
 禁煙継続できているもの
・5回通院者:保険診療期間内(12W)に5回通院できた者

[Ⅱ.目的]

 禁煙外来患者のデータから傾向を知り、通院と禁煙継続への意欲の持てる禁煙支援を考える。

[Ⅲ.研究方法]

①研究デザイン:実態調査研究
②対象:平成22年4月~10月までに禁煙外来で治療を開始した患者31名
③データ収集方法:標準手順書の帳票2.3.4のデータやカルテなどから禁煙動機・喫煙情報・通院状況などの情報を収集
④分析方法:収集したデータを基に記述的に分析
⑤倫理的配慮:得られた情報は本研究のみに使用し個人が特定されないように配慮した

[Ⅳ.結果]

1)受診者数:31名(男性:23名 女性:8名)
 平均年齢:男性49.8歳(24~91歳)女性41.0歳(28~54歳)
2)禁煙・節煙歴のあるもの:11名(28%)
3)受診動機:
「たばこは体に悪い」「咳・痰などの症状がある」:14名
「治療中の病気の主治医や家族から禁煙を勧められた」:4名
「家族・周りのことを考えて」・「子供が喫煙のしぐさを真似る」:2名
「知人の禁煙に刺激を受けた」:2名
「たばこ代の値上がり」:1名
「動機不明(情報不足)」:8名
4)5回通院者(率):6名(19%)
 治療中断者25名
5)治療中断の理由:「副反応出現のため」
「自力禁煙に自信がある」「その他」
6)受診者総数のうち禁煙成功数(率):14名(45%)
 5回通院者の禁煙成功者:4名(66%)
 禁煙不成功者が2名
 治療中断者25名のうちの禁煙継続者:10名(40%)

[Ⅴ考察]

 禁煙外来の受診率は男性の方が高く全国的データと同じ傾向であった。年代別には50代が最も多くライフステージの変化に伴い健康への配慮をする年代といえる。3) 治療のプログラムとして保険診療期間の12週のうちに5回の通院が義務付けられているが副反応や自力禁煙に自信ができたとの理由から治療を中断する者があり5回通院率は低かった。 当院の禁煙成功率は45%であり全国平均49.1%と比べると低いが5回通院者で見た場合の成功率は66%と高値であった。 全国のデータでも治療中断者より5回通院者の方が禁煙成功率は高く、中断したとしても通院回数が多いほど禁煙率が高くなるというデータがある。3)当院でも通院治療を継続するための対応を検討する必要がある。 ニコチン依存症は、「身体的依存」と「喫煙習慣による心理的依存」から成るといわれている。受診者の中にも起床後や食後、仕事あがりに一服など喫煙が生活リズムの一部になり、特に強い渇望感がなくても習慣でつい吸ってしまうという発言が多くあった。 禁煙のための行動変容を起こすには、喫煙と結びついている生活行動を変える「行動パターン変更法」や喫煙のきっかけとなる環境を改善し喫煙欲求を起こしにくくする「環境改善法」、喫煙の代わりに他の行動を起こして喫煙欲求をコントロールする「代償行動法」を取り入れた対応が望ましい4)。禁煙支援者はこのことを踏まえて指導していくべきだと考える。 また、バンデューラは、行動変容を起こすためには「行動変容の対象となっている行動がその人にとって望ましい成果をもたらすと考えること(結果期待感)」そして「実際にその行動を起こすことができるという自信をもつこと(自己効力感)」が重要である5)と述べている。 これらのことから初診時に「禁煙動機」から「望む成果」を把握し、定期受診時には呼気一酸化炭素濃度(CO)のチェックと禁煙継続の可否を確認する。CO濃度の低下や禁煙が継続できている場合はその努力を認め賞賛する。禁煙ができていない場合には、服薬日記や聞き取りから喫煙状況・本数などを確認し個別的な対応方法を一緒に考えていく。どうしても禁煙継続が無理な場合は、「次回受診日までの禁煙」という大きな目標ではなく「今日1日禁煙」という目標にして小さな成功体験をさせ、それを継続させて自己効力感(達成感)を高めていくこともひとつの方法だと考える。 また、治療中断した喫煙者の中には「薬さえ飲めば簡単に禁煙できると思っていた」「治療をすればタバコがまずくなると思っていた」など誤った認識があり禁煙補助薬ついて十分な説明がなされていないのではないかと感じた。治療開始時には保険診療での治療の妥当性をチェックし、5回通院費用や禁煙補助薬の薬理作用、治療プログラム、服薬日誌の記入法などの説明を行うが初回だけでは習得することは難しい。特に薬剤は補助的な役割しかなく自己の意識が大きな割合を占めることを認識してもらわなくてはならないと考える。 どうしても禁煙できずにニコチン・タールの少ないタバコに変える。喫煙本数を減らしている症例があった。これは「タバコを止めるのは無理だが減らすのはできそう」とか「減らすだけでも健康上のメリットがある」という誤解にもとづいている。本人は涙ぐましい努力しているだろうが支援者側が安易に節煙行動をほめてそれを強化すると禁煙につながらなくなる可能性がある。「節煙では健康上のメリットはなく、かえってつらい」ということをきちんと情報提供し、実際に節煙している人には「節煙は禁煙するより難しい」と正しい情報を提供し「節煙することができる意志の強い人ならきっと禁煙できる」と励ましていくことが大切だと考える。 一時的に禁煙治療に成功すると自信が出てきて喫煙に対する不安感がなくなり再喫煙につながることがある。喫煙欲求は治療の急性期だけではなく慢性期においても衝動的に出現する欲求であるため禁煙治療薬と心理的ケア・禁煙指導を同時に行うことでさまざまな障害に出くわしても喫煙せずにそのような状況に対処していけるという自身を身につけることが出来るように導かなくてはならない4)

[Ⅵ 結論]

① 全国平均に比べると当院の禁煙成功率は低いが5回通院者のみで見ると高い。5回通院させるための工夫が必要。
② 行動変容を起こすために大切なことは「結果期待感」「自己効力感」を見出すことそのためには、受診動機から本人の「望む成果」を把握する。場合によっては小さな目標を掲げ、達成・継続させ「自己効力感」を見出させる援助をする。
③ 誤った認識を持っていることがあるのでその都度正しい情報を提供する。
今回の研究で明らかになった点をふまえ年齢・性別・受診動機・禁煙に対する認識などを把握して個別性のある禁煙支援につなげていきたい。
[引用・参考文献]

1)全国喫煙者率調査H21年:たばこ産業(JT)HP
2)禁煙支援のための標準手順書:日本循環器学会・日本肺癌学会・日本癌学会作成
3)中医協H21年 ニコチン依存症管理料算定医療機関における禁煙成功率の実態調査
4)ニコチン依存症に対する行動療法の動機づけ:酒井哲夫 日本禁煙学会誌 2010年
5)行動変容プログラムの方法論的背景
6ほめる行動変容―タバコ依存症の場合―薗はじめ:公衆衛生

最終更新日: 2011/05/28

 
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