第47回　全日本病院学会　宮崎大会

玉城　葉子

冬季下痢症の原因にノロウイルスが報告され、多くは軽症であるもののその伝播は早く高齢者では死亡例もあります。沖縄県北部にある当院で2004年11月から感染性胃腸炎（以下本症）が外来及び入院病棟で相当数発症しました。今後の伝播抑止に役立てる為に市中と院内での発症様式について解析考察を行ったので報告します。

[地域紹介](画像②)

当院のある本部町は人口１万５千人で近くに海洋博記念公園やちゅら海水族館があります。

[病院紹介](画像③)

　当院は一般外来と慢性期患者様を対象とした150床の療養病床を有しています。4つの病棟があり入院患者様の平均年齢は83歳と高齢です。

[方法](画像④)

当院の看護支援システムは、バイタル、看護記録等のデータをデジタル保存することにより情報の共有化を図り、患者様の状態確認をスムーズに行うことが出来ます。又、院内をネットで結ぶ事により全パソコンより看護記録が閲覧できます。蓄積されたデータを分析し、感染症などの早期発見や感染パターンの解析等に役立ちます。今回このようなシステムを利用し解析しました。

2004年11月から2005年2月にかけて当院を受診、又は入院していた患者様の看護記録より「下痢」「嘔吐」をキーワードに検索し本症を解析しました。外来においては問診をザウルスで入力しています。

[結果](画像⑤)

町内の住民で当院外来を受診した本症の患者分布に発症時期や地域への集積性はみられません。特定の地域からの発症ではなく、全地域から散発的に発症しているのがわかります

本症はカキを含む二枚貝による食中毒として多く報告されていますが、本部町でのカキの養殖及び食習慣は特にありません。又、気温が下がると発症しやすいとの報告があり、町内の気温を例年と比較しましたが温度差はありませんでした。

そのため外来患者の初期発症原因を確定することはできませんでした。

病棟では初期の頃、風邪症候群に伴う「胃腸症状」との認識でした

しかし、デジタル化された看護記録より検索した結果(画像⑥)、外来では11月中旬より散発的に患者様は受診していました。又、病棟では入退院の多い（Ａ）病棟が12月中旬より発症しています。年末年始をはさんで患者様の増加が見られたのは、見舞い客の増加や外泊が原因とも考えられます。更に年末年始の休日体制により把握が遅れたので休日の管理体制も注意が必要だと思います。

（Ａ）病棟を追うように介護度4・5の（Ｂ）病棟での発症があります。

職員の発症は散発的でした。

（Ａ）病棟（Ｂ）病棟での発症患者様が増加したため、感染性を疑い集中的な感染防止対策を施行し、その後所轄の保健所へ届け出ました。

外来及び病棟の患者発生数の比較です。(画像⑦)

最初に発症患者様の出た（Ａ）病棟は発症部屋も散発的で症状も比較的軽症でした。しかし、（Ｂ）病棟は伝播が早く、発熱者・再燃患者が多く、隣接患者間の水平伝播が記録より読み取れました。職員の感染症に対する認識の甘さも要因だと考えられ、徹底した感染予防対策を実施致しました。その結果対策後約20日間で院内伝播は抑止され本症による死亡者は認めませんでした。外来においては家族間の伝播も多くありました。

当院の対策は以下の通りです。(画像⑧)

①患者様はもちろんのこと面会者や職員への注意喚起ポスターの掲示(手洗いの方法等)
②手袋・ガウンの着用、次亜塩素酸ナトリウムを使用した清掃・消毒

以上の対策を実施し、各部署の代表者で毎朝行われるショートミーティングでは外来及び病棟での発症状況などが報告され、他の職員への注意が喚起されました。

[まとめ](画像⑨)

①2004年末より沖縄本島北部で地域的にノロウイルスによると考えられる感染性胃腸炎のアウトブレイクが観察されました。
②発症者は外来からはじまり、入退院の多い病棟、そして他の病棟へと急速に増加しました。
③発症者は入退院の多い（Ａ）病棟では比較的軽症であったが、介護度4・5の（Ｂ）病棟では伝播が早く発熱者、再燃患者率が高いことがわかりました。
④院内感染対策を徹底し、約20日間で発症の増加が抑止されました。

[最後に]

デジタル保存の看護記録により外来、病棟患者症状解析が可能でした。今後のアウトブレイクの把握には外来を含めた症状解析が望ましく、これには統計学的な予測、対策が強く望まれると考えます。

最終更新日: 2008/12/25