ロゴ 
トップページ 
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
高齢患者・家族への退院支援
-看護のプロセスを振り返って-

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院
満名和枝、阿波連しのぶ
伊藤幸江、島袋こずえ

[はじめに]

 わが国の高齢化率は急速に進み、平成19年度の高齢化率は21.5%に達し、沖縄県では16.3%、本部町では24.0%となっています。
 当病棟は医療療養病棟であり、平均在院日数は123日で患者の平均年齢は86歳です。長期療養が必要な患者の他に、骨折後のリハビリテーション目的の患者も多く、状態が安定し退院可能となっている患者も少なくありません。その中で退院への取り組みがすすんでいない状況にある患者がいました。今回この事例を振り返り、高齢患者とその家族への退院支援に必要な看護を明らかにする目的で、研究検討したので報告します。

[研究方法]

 研究方法は事例研究です。
 患者は92歳の女性、自宅で転倒し、右足関節骨折と右大腿骨頚部外側骨折にて、骨接合術と右足関節プレート固定術を施行、術後創部感染にて右足関節のプレートを除去し、骨癒合が不良のため、今後は歩行は不可能であると医師より説明を受けました。4月1日リハビリテーション目的にて当院へ転院となりました。
 五男夫婦と同居しており、次女と嫁が主に面会に来ていました。

[看護経過]

 第1段階
入院時のADLは車椅子への移動動作はほぼ自立できていましたが、車イスのストッパーをかけ忘れるなどの安全面での不安があり見守りが必要でした。転倒のリスクを考え、センサーコール設置にて対応しました。リハビリテーションには意欲的に取り組まれADLは安定しました。

 第2段階
在宅への退院は可能と考えられましたが、患者、家族からは退院に関する言葉は聞かれませんでした。患者へ退院について思いを聞いてみると「家には帰りたいけど嫁に迷惑をかける。」と話され、家族への遠慮が伺えました。同居の嫁に退院について話すと「ちょっと無理です。昼間世話する人もいないし。もう少し病院に居させてほしい。」と話されました。他に支援者が得られないか患者、家族の背景を確認するため看護1号用紙を振り返ると不足している情報が多いことに気付きました。そこで、再度患者と同居している嫁から情報収集を行ったところ、同居している息子(58歳)がうつ状態で休職していることや、入院時にキーパーソンとなっていた次女(45歳)が、脳出血で入院していることがわかりました。家族へ退院に関して聞き取りを行った結果、「日中世話する人がいない」、「家に段差があり、トイレまでが遠い」、「誰も居ない時に歩いて転倒しないか心配である」という3点の問題があがりました

 第3段階
理学療法士からはリハビリテーションのゴールは達成しており、介護サービスを利用した在宅療養は可能であるとの見解でした。そのため、家族へ①段差解消や手すり設置等の住宅改修を行う。②必要なベッドやポータブルトイレは申請で借り入れができる。 ③日中はディサービスを利用することを提案しました。同居の嫁と面談し退院への意向を確認すると、「家でみてあたい気持ちはある。」と言われました。不安事項に関することに対し社会資源の利用を説明すると理解はされていました。再度息子と話し合うようにお願いしましたが、「夫は在宅は無理であると言っている。ディサービスは絶対に利用しないと思う。介護施設への移動をお願いしたい。」との返答でした。家族の最終決断が介護施設への移動となり、1月19日介護老人保健施設へ入所されました。

[考察]

 入院時からの状況を整理して考察しました。
 第1段階での初期の看護計画、看護目標を振り返ると退院を視野に入れたものでありませんでした。また入院3ヶ月後にプライマリーで看護計画の修正がされ、目標は「在宅退院できる。」と変更されていました。しかし、業務に終われチームカンファレンスができていなかったため、チームで目標に向かって具体的な援助ができていませんでした。患者に必要な時期に必要な援助を行うためには、定期的なチームカンファレンスを開催し、看護の評価、計画の修正、目標設定を行うことが大切であると再認識しました。
第2段階では患者、家族の思いを聞き取るなかで、入院時に十分な情報収集ができていないことがわかりました。在宅退院を支援する上でどのような支援を必要としているのか判断するには、患者の生活歴や、同居家族の職業、健康状態、他の支援者の有無、住宅の構造などの情報が重要となるため、今後は入院時にこれらの情報が収集できるように病棟スタッフに意識づける必要があると考えます。第3段階では在宅への退院に向け嫁中心に関わることになりましたが、結局受け入れてもらえませんでした。大滝は、「入院が長期化するにつれ、在宅介護の意識は薄れてきます。」2)と述べています。入院当初から退院を視野に他の家族とも関わり、家族の抱える問題に援助できていたら、違った結果になっていたかもしれません。
 叶谷らは、「患者の退院支援のために必要なことは、患者の入院早期から、退院支援のニーズを把握し、計画的に退院支援することである。」3)と述べています。入院時の情報収集は重要ですが、情報を取っただけでは退院支援に結びつきません。社会資源に関する知識を持ち、早期に看護計画を立案し、計画的に援助していくことが必要です。そして医師や理学療法士、栄養士、ケアマネージャーとチームで患者、家族の相談にのり、地域との連携をはかりながら必要な時期に必要な援助を行っていくことで患者にとって良い退院支援が行えると考えます。

[結論]

 1.看護師は定期的なカンファレンスを開催し、看護の評価、計画の修正、目標の設定を行い、必要な時期に必要な援助を行う必要がある。
 2.入院時から入院の目的を意識し退院を視野に入れ、患者の生活歴、家族の健康状態、職業、支援者の有無、住宅の構造などの情報収集を行うことが重要である。
 3.看護師は社会資源に関する知識を持ち、チームと連携しながら計画的に援助していく必要がある

[謝辞]

 今回この研究をまとめるにあたり、ご指導いただきました名桜大学の先生方に深く感謝いたします。

最終更新日: 2009/07/02

 
Copyright (C) 2005 Motobu Noge Hospital. All Rights Reserved.