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褥瘡に対するラップ療法の評価
-食品包装用フィルムを用いた褥瘡治療-

医療法人野毛会 もとぶ野毛病院
兼城昌行、島袋なつき
輕尾洋、辻正人

[はじめに]

 近年、褥創の治療法に湿潤療法が導入されはじめている。湿潤療法は、創傷(特に擦過傷)や熱傷などの皮膚潰瘍及び褥創に対し、従来のガーゼと消毒薬での治療を否定し、「消毒をしない」「乾かさない」「水道水でよく洗う」を3原則として行う治療法。閉鎖療法、潤い療法とも呼ばれる
 再生組織を殺さないように創部を湿潤状態に保ち、なおかつ感染症の誘因となる壊死組織や異物を十分除去することで創部の再生を促すものである。

[研究目的]

2007年ラップ療法導入前と2008年ラップ療法導入後の各1年の褥創のデータから治癒の経過を比較してラップ療法の有用性を明らかにする。

[研究方法]

1. 調査対象者 ・褥創Ⅱ度~Ⅳ度 ・基礎疾患は、脳血管障害が22例と最も多い
2.調査期間
 ・2007年6月~2008年5月ラップ処置導入前
 ・2008年6月~2009年5月までのラップ処置導入後
3.方法
①褥創患者の総数、再発、治癒した人数の割合を算出する
 (ここでの治癒は上皮化形成した状態をいう)
②疾患別による治癒状況のデータ
③褥創治療に関わるコストの算出
④ラップ療法で改善のみられなかった原因を明らかにする
⑤ラップ療法の効果があった症例から改善の要因を究明する

[結果]

1.2007年6月~2008年5月褥瘡保有患者の総数が56名(再発者も含む)、
 治癒または退院者49名。治癒率83%。再発患者20名。
 2008年6月~2009年5月褥瘡保有患者の総数が37名(再発者も含む)、
 治癒または退院者34名。治癒率91%。再発患者11名。
 (ここでは死亡退院、転院患者を除いて治癒率を算出している。)
 2008年6月から新規発生・再発患者が減少している。
2.2007年6月~2008年5月褥瘡保有患者36名、疾患別内訳
 脳血管疾患24名中治癒20名(83%)
 脊椎疾患3名中治癒3名(100%)
 悪性腫瘍2名中治癒0名(0%)
 糖尿病3名中治癒2名(66%)
 腎疾患3名中治癒3名(100%)
 ASO 1名中治癒0名(0%)
 2007年6月~2008年5月褥瘡保有患者26名、疾患別内訳
 脳血管疾患16名中治癒15名(94%)
 リウマチ1名中治癒0名(0%)
 悪性腫瘍2名中治癒0名(0%)
 糖尿病3名中治癒2名(66%)
 腎疾患2名中治癒1名(50%)
 ASO1名中治癒0名
 アルツハイマー1名中治癒1名
3.コスト面削減
 2007年度 ¥397,138-
 2008年度 ¥ 18,390-
4.ラップ療法の効果がなかった症例
 (症例1)
 検査データから入院時より、肺がんと重症肺炎の併発があり抗生剤使用も改善なく
 栄養状態もさらに悪化した。その後、重症化し死亡退院、褥創も徐々に悪化した。
5.ラップ療法の効果があった症例
 (症例2)
 ・ラップ療法のみで改善なく、リゾチーム塩酸塩軟膏(商品名:リフラップ)へ変更後も 悪化傾向みられデブリ施行。デブリ後、ラップ療法にて治療開始し経過良好。
 11/19亜鉛43(正常値65~110)亜鉛サプリメント開始(朝1回)
(症例3)
・褥創Ⅲ度 15cm×10cm持ち込み入院。入院後(H,21 2月)よりラップ療法開始し 約1年経過し徐々に縮小みられる。

[考察]

 ラップ処置導入後、褥瘡患者の総数が減少したことから褥瘡マットや体位変換などの予防的なケアの重要性を再認識する事ができた。また、ラップ療法開始後の治癒率が上昇していることから、褥瘡の発見・報告が早く、早い段階のステージで早期にラップ療法を開始したことで治癒が早まったと考えられる。
 患者別内訳から、悪性腫瘍やASO、糖尿病、感染、貧血、低栄養、るいそうを伴う褥瘡患者は治癒の遅れや悪化傾向がみられることがわかった。褥瘡治療において、ラップ療法は従来治療法に比べて、簡便で経済性に優れていることは明確になった。植田らは「従来治療に比較して有意差をもって安価であり、治療の延べ日数は統計学的に有意な差はなかった。」と述べている。
 ステージⅣ、ポケット形成、壊死組織のある褥瘡では、デブリードメントが必要でありラップ療法の限界がある。必要な症例に対しては積極的にデブリードマンを施行する必要がある。植田らは「ポケット形成が存在したときにそれを切開するべきか、膿がドレナージされていれば切開するべきでないかなど、研究者により異なる主張がある。」と述べている。
 効果が見られた症例から、ラップ療法以外の要因として離床・除圧・清潔保持・NSTによる栄養管理が行き届いていた事も大きな要因であると考える。

[まとめ]

 患者の心理(医療従事者の心理も含むが・・・)としては消毒を行い、清潔な、純白のガーゼで保護した方が安心である。
 しかし、消毒は治癒過程に必要な浸出液まで洗い流してしまう。不適切な軟膏による創傷の被覆も創傷の観察を妨げてしまうばかりか、浸出液の漏出を妨げ、当人の治癒力も妨げてしまう事になる。ガーゼによる保護も創傷の観察が不可能であり、次回処置時に強い疼痛を伴う。
 ステージⅣ、ポケット形成、壊死組織のある褥瘡では、デブリードメントが必要でありラップ療法の限界がある。必要な症例に対しては積極的にデブリードマンを施行する必要がある。植田らは「ポケット形成が存在したときにそれを切開するべきか、膿がドレナージされていれば切開するべきでないかなど、研究者により異なる主張がある。」と述べている。
 ラップ療法の利点として以下のようなことが挙げられる。
 1.浸出液が多くても直ちにドレナージされるので、適度の湿潤が保持できる
 2.壊死組織があっても治癒できる→自己融解する
 3.創を閉鎖しないので、感染創も治癒できる
 4.究極の薄さなので、創を圧迫しない
 5.創とラップの間に浸出液の薄膜が維持される為、創や皮膚の摩擦を防ぐ
 6.大きな創でも治療できる
 7.処置に熟練が不要
 8.経済性に優れる
 9.真菌症が合併した場合等、外用薬の併用が可能
 10.ラップを直接皮膚に固定しない為、蒸れやテープによる皮膚損傷がない。

 この研究を通してラップ療法は多くの利点があることが分かったが、褥瘡治療において全身状態の管理と原因の除去が重要であるということを再認識した。
 さいごに、ラップ療法の有用性を今後正しく検証するためには、対照を適切に設定することが必要である。
 この研究を通してラップ療法は多くの利点があることが分かったが、褥瘡治療において全身状態の管理と原因の除去が重要であるということを再認識した。

[文献]

1)植田俊夫・下窪咲子他:褥創に対するラップ療法の有用性の検証
2)八木恵子・国友一史他:褥創に対するラップ療法の試み
3)鳥谷部俊一:これでわかった!褥創のラップ療法:三輪書店
4)宮地良樹:褥創のすべて:永井書店
5)水原章浩:傷の正しい治し方 創傷から褥創のラップ療法:金原出版

最終更新日: 2010/05/29

 
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